
2003年に宝飾業界を震撼させた「アントワープ・ダイヤモンド強盗事件」。難攻不落とされた金庫から推定最大5億ドルものダイヤモンドが奪われたこの事件の全貌に迫る新たなドキュメンタリーが、動画配信サービスNetflixで公開される。事件の首謀者とされる人物も登場するとみられ、業界関係者の注目が集まっている。
■巧妙な手口と未解決の謎
このドキュメンタリーのタイトルは『Stolen: Heist of the Century』(邦題:『ハイスト・オブ・センチュリー:世紀のダイヤ金庫破り』)。Scott Andrew SelbyとGreg Campbellによるノンフィクション書籍『Flawless』を原作とし、8月8日より世界配信が予定されている。
番組では、窃盗団がいかにして幾重にも張り巡らされた最新鋭のセキュリティシステムを突破し、ベルギー・アントワープの地下金庫から推定1億ドルから5億ドル相当のダイヤモンド、宝飾品、現金、貴金属を盗み出したのか、その詳細が描かれる。Netflixの発表によれば、本作には事件解決にあたったアントワープの刑事たちに加え、事件の「首謀者とされる人物」も登場するという。
この事件で中心的な役割を果たしたのが、イタリア人窃盗団のリーダー、レオナルド・ノタルバルトロである。彼は2005年にベルギーの裁判所で禁固10年の判決を受け、共犯者3人もそれぞれ5年の刑に服した。しかし、5人目の容疑者はいまだ逮捕されておらず、盗まれた金品の大部分も回収されていない。事件から20年以上が経過した今なお、多くの謎が残されているのだ。
■実力派制作陣が描く事件の深層
監督・脚本を務めるのは、イギリスの制作会社Rawに所属するマーク・ルイス。同氏は、Netflixで大きな話題を呼んだドキュメンタリー『猫イジメに勝手に関わった男たち: これがネットリンチの恐怖』や『エマニエラ・オルランディ失踪事件』を手がけた実力派だ。
制作には、同じくRaw(宝飾業界にも関連するドキュメンタリー『Tinder詐欺師: ある男の過ち』で知られる)に加え、スティーブン・スピルバーグが率いるアンブリン・パートナーズのドキュメンタリー部門であるアンブリン・ドキュメンタリーズも名を連ねており、作品の質の高さが期待される。上映時間は1時間35分。
■なぜ今、アントワープ事件なのか
この巧妙かつ大胆な犯罪は、これまでにも繰り返しメディアで取り上げられてきた。2010年に出版された原作本をはじめ、ヒストリーチャンネルの『世界史を変えた重要事件』、マイケル・ケインがホストを務めたAudibleのポッドキャスト、そして2023年にAmazon Primeで配信されたドラマ『みんなダイヤモンドが大好き』など、その例は枚挙にいとまがない。
今回、首謀者本人や捜査官への新たな取材を通じて、これまで語られなかった事件の核心にどこまで迫れるのか。宝飾品のセキュリティや流通のあり方に大きな影響を与えたこの「世紀の強盗」は、業界にとって単なる過去の事件ではなく、今なお多くの教訓を投げかける存在である。
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