
アフリカ有数のダイヤモンド生産国であるボツワナのデュマ・ボコ大統領が先週発した「デビアスはその役割を果たしていない。我々がダイヤモンドを自分たちで売るべき時かもしれない」という発言が、国際ダイヤモンド市場に衝撃を与えている。一部ではこれが資源の国有化を示唆していると受け取られ、業界関係者を中心に大きな議論を呼んでいる。
事実、ボツワナがダイヤモンド輸出に深く依存しているのは周知の通りだ。2022年時点でボツワナのGDPの約35%、輸出収入の85%がダイヤモンド関連産業から生み出されている。デビアスとの合弁会社「デブスワナ」は、同国の政府収入の柱である。新政権発足後、ボコ大統領はデビアスとの関係改善を目指してきたものの、今回の発言はその流れに逆行するかたちとなった。
ただし、単純な国有化はリスクも大きい。掘削・輸出・流通のノウハウは容易に代替できるものではなく、ダイヤモンド採掘には巨額の初期・継続投資が必要だ。過去の資源ナショナリズムの失敗例を見ても、ボツワナ経済のさらなる単一依存は避けるべきだろう。実際、ボコ大統領自身も演説内で「経済多角化の失敗」を嘆いていた。
一方で、今回の発言にはもう一つの側面がある。それは、「デビアス売却」という現実に鑑みて、ボツワナ政府がさらなる資本参加、あるいは自国産ダイヤモンドの直接販売を模索するという示唆だ。特に近年、顧客の間では持続可能性やトレーサビリティへの関心が高まっており、「ボツワナ産」ダイヤモンドのブランド価値向上が注目される。こうしたトレンドは、日本市場でも高級宝飾店で「産地表示」やストーリー性を訴求する取り組みが強まっている点からも裏付けられる。現実には「産地訴求」が売上拡大に直結するかはまだ不透明だが、今後の成否によってはラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドの差別化要因となり得る。
なお足元の市況は厳しい。世界の天然ダイヤモンド市況は低迷し、コロナ禍後の需要回復もいまだ限定的だ。中国・インドの需要鈍化、米国ジュエリー市場の成熟も重なり、鉱山閉鎖やリストラが世界中で進む。加えて、米中貿易摩擦などの追加関税は、ボツワナのような産出国にさらに大きな圧力を与えている。
実際、ボツワナは近年予算赤字が拡大し、公教育や医療インフラの劣化も伝えられている。大統領による強硬発言は、国内支持層へのアピール=「不満のガス抜き」の側面も大きい。だが、こうした発言はデビアス売却の評価額に影響し得る点で、市場に緊張感を与えたことは否めない。
日本のジュエリー業界にとっても、ボツワナのダイヤモンド輸出方針や新たな販売スキームは、安定調達やブランド戦略に直結する問題である。日本へ輸入されるダイヤモンドの相当数がボツワナの原石を使用しており、その動向はマーケット全体へ波及する。今後も同国の政治・経済動向を注意深く見極める必要がある。
ボコ大統領の発言をどう解釈すべきか、現時点で明確な答えはない。しかし、持続可能なダイヤモンドサプライチェーンの再構築が世界的な課題となる中、今回の一連の動きは、従来型のグローバル資源ビジネスに新たな分岐点をもたらす契機となりそうだ。
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