
スイスの時計製造大手スウォッチグループが2025年上半期の連結決算を発表した。中華圏市場の低迷が響き大幅な減収減益となったものの、中国市場では回復の兆しが見え始めており、下半期の業績改善に強い期待感を示した。また、AI(人工知能)を活用したパーソナライゼーションサービスという新たな一手も打ち出し、市場の注目が集まっている。
中華圏の不振が直撃、その他地域は過去最高
2025年上半期の連結売上高は、前年同期比11%減の30億6000万スイスフラン(約5661億円*)となった。為替変動のマイナス影響を除いた実質ベースでも7%の減少であった。純利益は、前年の1億4800万スイスフランから88%減となる1700万スイスフラン(約31億4500万円*)へと大きく落ち込んだ。
同社はこの業績不振の要因について、「中国、香港、マカオ市場に限定される」と分析。18ヶ月前にはグループ売上の33%を占めていた同地域の構成比は24%まで低下し、その影響の大きさを物語っている。スイス時計協会(FH)が発表する輸出統計を見ても、スイス時計産業全体で中国向け輸出の軟調さが指摘されており、特にエントリー・ミドルレンジ価格帯を主力とする同グループが、現地の消費マインド冷え込みの煽りを強く受けた格好だ。
一方で、中華圏を除くその他すべての地域では売上が過去最高を記録。特に欧米や日本を含むアジア市場の堅調さが、グループ全体の業績を下支えした。これは、特定市場への依存リスクを分散し、グローバルで多様なポートフォリオを構築することの重要性を改めて示す結果となった。
部門別では、主力の時計・宝飾部門の売上が13%減の28億9000万スイスフラン(約5346億円*)であった。
中国市場に底打ちの兆し、Eコマースが牽引
厳しい結果となった上半期だが、同社は下半期の展望について楽観的な見方を示している。その最大の根拠は、不振の主因であった中国市場に「ポジティブな改善の兆し」が見られることだ。
具体的には、現地の小売店における在庫水準が減少し、消費された商品を補充するため、同社傘下のオメガ、ティソ、ハリー・ウィンストンなどのブランドの新規発注に改善が見られ始めたという。特にEコマース(電子商取引)の分野では消費の回復が顕著で、引き続き成長を牽引するものと見られている。これらの状況から、同社は「下半期には中華圏市場の環境が改善し、小売店の在庫がさらに減少することで受注の回復が進む」と予測している。
世界最大の時計市場である中国の動向は、日本のインバウンド需要にも直結する。同市場の回復が本格化すれば、日本の時計・宝飾小売業界にとっても追い風となる可能性があり、今後の推移を注視する必要がある。
AI活用で新機軸、パーソナライゼーションを強化
業績回復に向けた新たな一手として、同社は独自のパーソナライゼーション機能「AI-DADA」の導入計画を明らかにした。これは、顧客がスウォッチブランドのアーティスティックAIと直接対話することで、世界に一つだけのオリジナルウォッチをデザインできるという画期的な製品だ。
近年、時計業界では若年層を中心に「自分だけの特別な一本」を求める傾向が強まっている。この「AI-DADA」は、マス・カスタマイゼーション(大量生産型の個別化対応)の最先端を行く試みであり、製品そのものの魅力に加え、「共創」という体験価値を提供することで、新たな顧客層の開拓とブランドロイヤリティの向上を狙う。この取り組みが成功すれば、業界全体の製品開発やマーケティング戦略に一石を投じることになるだろう。
中華圏市場の回復という外的要因と、AI活用という内発的なイノベーション。この二つを両輪に、スウォッチグループが下半期にどのような巻き返しを見せるのか、業界の関心は高い。
*1スイスフラン=185円で換算
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