欧州産天然ダイヤモンド、米国の追加関税を免除

【スポンサー広告】

アントワープの競争力回復へ、研磨地を軸とした供給網再編の可能性

米国政府は、欧州連合(EU)加盟国を原産地とする天然ダイヤモンドについて、新たに導入した追加関税の対象から除外した。これにより、欧州で研磨された天然ダイヤモンドに過去約6カ月間課されていた10%の追加関税は、2026年7月24日付で解消された。ベルギー・アントワープのダイヤモンド業界にとっては、米国市場への輸出競争力を回復する重要な措置となる。

一律10%の関税から再び免税へ

欧州産ダイヤモンドに対する米国の追加関税免除は、今回が初めてではない。米国は2025年、EUとの協議を経て、欧州産の天然ダイヤモンドを追加関税の対象外としていた。その背景には、米国内に商業規模のダイヤモンド採掘産業や研磨産業が存在せず、欧州からの輸入品に関税を課しても、保護すべき米国内産業がほとんど存在しないという事情があった。

しかし2026年2月、米連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法、いわゆるIEEPAを根拠とした相互関税を違法と判断したことを受け、従来の関税制度は失効した。その後、米政権は1974年通商法第122条に基づき、一律10%の輸入課徴金を導入したため、欧州産ダイヤモンドも再び課税対象となっていた。

この第122条による関税措置は最長150日間の時限措置であり、2026年7月24日に終了した。米国政府はこれに代わり、強制労働に関する輸入規制の不十分さを理由として、通商法第301条に基づく新たな関税制度を発動した。

強制労働対策を根拠とした新たな第301条関税

新制度では、強制労働によって生産された商品の輸入を禁止、または十分に取り締まっていないと米国が判断した国・地域に対し、原則として10%または12.5%の追加関税が課される。

EUについては、強制労働製品の輸入禁止制度を持つものの、十分に執行していないとして、基本的には10%の関税対象に指定された。EUの強制労働製品禁止規則が全面的に適用されるのは2027年12月とされており、米国側は現段階の制度運用が不十分であると判断した形だ。

一方、米通商代表部(USTR)が公表した最終措置では、EU加盟国を原産地とする一部品目が例外として列挙された。その中には、米国関税分類番号7102.10.00、7102.31.00および7102.39.00に該当するダイヤモンドが含まれている。具体的には、未選別ダイヤモンド、未加工または単純にソーイング、クリービング、ブルーティングされた非工業用ダイヤモンド、さらに研磨済みで枠に留められていない非工業用ダイヤモンドが対象である。

つまり、免税対象はルース状態の天然ダイヤモンドであり、ダイヤモンドを使用した完成ジュエリー全般が自動的に免税となるわけではない。完成品については別の関税分類が適用されるため、輸入時には原産地とHS分類の双方を確認する必要がある。

「採掘地」ではなく「原産地」の判断が重要

今回の措置で注意すべき点は、「欧州を経由したダイヤモンド」であればすべて免税になるわけではないということだ。

ダイヤモンド原石の多くはアフリカ、カナダ、ロシアなどで採掘されており、欧州は主要な採掘地ではない。今回の免除は、通関上EU加盟国の産品と認められるダイヤモンドを対象としたものであり、単にベルギーの取引業者から出荷されたという事実だけで、EU原産になるとは限らない。

一般に、ダイヤモンドの原産地判定では、どこで実質的な加工や形状変更が行われたかが重要となる。したがって、インドなどで研磨されたダイヤモンドをアントワープ経由で米国に輸出しても、直ちに欧州産として関税免除を受けられるとは限らない。輸出者と輸入者は、研磨工程、原産地表示、インボイス、通関申告の整合性を確保する必要がある。

アントワープにとって追い風

アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター(AWDC)は、今回の免除が欧州最大のダイヤモンド取引・研磨拠点であるアントワープの競争力を強化すると評価している。

ベルギーは2024年、米国向けに約21億ドル相当の研磨済みダイヤモンドを輸出した。米国はベルギーのダイヤモンド産業にとって重要な市場であり、10%の追加関税は価格競争力と取引採算の双方に直接的な影響を与えていた。

AWDCは、天然ダイヤモンドにはすでにキンバリー・プロセスをはじめ、原産地確認、顧客確認、マネーロンダリング対策、サプライチェーン上のデューデリジェンスなど、複数の管理制度が導入されていると主張してきた。そのため、強制労働対策を目的とした一律関税を天然ダイヤモンドに適用する必要性は低いとの立場である。

研磨拠点の選択に影響する可能性

今回の免税措置は、単なる関税負担の軽減にとどまらず、ダイヤモンド企業が研磨地を選定する際の判断にも影響を与える可能性がある。

世界のダイヤモンド研磨はインドが圧倒的なシェアを占めているが、米国向け輸出に10%前後の関税差が生じる場合、高額品や大粒石を中心に、ベルギーなど欧州で研磨する経済合理性が高まる可能性がある。

ただし、研磨コスト、人件費、加工能力、歩留まり、納期などを考慮すれば、短期間で大量の研磨業務がインドから欧州へ移転するとは考えにくい。AWDC自身も、過去の関税免除が直ちに研磨拠点の大規模な移転につながったわけではないと説明している。

それでも、数十万ドルから数百万ドル規模の高額ダイヤモンドでは、10%の関税差が取引条件を大きく左右する。特殊なカット、ハイジュエリー向けの大粒石、トレーサビリティを重視する商品については、アントワープでの研磨や仕入れが改めて検討される可能性がある。

日本企業にも無関係ではない制度変更

今回の免除は欧州と米国の間の措置であり、日本から米国へ輸出されるダイヤモンドやジュエリーに直接適用されるものではない。

しかし、日本企業がベルギーのサプライヤーから天然ダイヤモンドを調達し、米国向け商品に使用する場合や、欧州で研磨・仕入れを行ったルースを米国へ直接販売する場合には、価格競争力や物流設計に影響する。

また、第301条に基づく新制度は、第122条による時限措置とは異なり、あらかじめ明確な失効期限が定められていない。今後、対象国や除外品目が変更される可能性もあり、業界各社は最新のUSTR通知と米国関税分類表を継続的に確認する必要がある。

欧州産天然ダイヤモンドの免税復活は、アントワープにとって明確な追い風である。一方で、実務上の恩恵を受けるためには、単なる出荷地ではなく、原産地規則と加工履歴を正確に管理することが不可欠となる。関税政策が供給網の設計そのものを左右する時代に入り、ダイヤモンド業界にとって通関・原産地管理は、従来以上に重要な経営課題となっている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました