5月2日のRAPAPORTニュースに、”ダイヤモンドカッティングを「民主化」しようとしている男(原題 The Man Trying to ‘Democratize’ Diamond Cutting)”というタイトルで、スイスのテクノロジー企業Synovaの創設者兼CEO、Bernold Richerzhagenへのインタビューが掲載された。
この「民主化(Democratizing)」という言葉は最近の海外のスタートアップ企業などで好まれて使用されるワードだが、「破壊的イノベーション」のことを表している。
民主化(デモクラシー)は元々は特権階級から一般の市民などに権力が移行されることを言うが、テクノロジー分野における「民主化」も同様に、一部の特権的立場の企業しかできなかったことを、その他にも多くの企業ができるようにする改革を表して使用されている。
この「民主化」がダイヤモンド生産の分野を大きく変えようとしている。
スイスのテクノロジー企業であるSynovaはダイヤモンドを含む硬質素材のレーザー切断テクノロジーを開発製造しており、デビアスがその株式の1/3を保有している。2020年には、ラウンドブリリアントカットダイヤモンドのファセット57面(欧州では一般的にキューレットをファセットとして数えないので57面と表現する)全てを1回の操作で切断する“DaVinci”システムを発売した。
今年2月、Sinovaはイスラエルのダイヤモンドテクノロジー企業Sarine Technologiesと技術協力に関する覚書(MoU)に署名した。これによって、世界トップシェアを誇るSarine Technologiesの原石プランニングシステムAdvisor™のプランニングファイル(ダイヤモンド原石の3Dスキャンモデルを元にカットプランを設計したもの)をDaVinciシステムで使用できるようになる。
これによって、ダイヤモンドの製造プロセスはカットプランから実際の作業に至るまでAIを活用した完全自動化が実質的に実現することになる。
SynovaのCEO、Bernold Richerzhagenは、このシステムはインドで最も安価な人間による研磨の半分のコストで年間約12,000カラットを生産し、2〜3年で初期投資収益を得ることが可能だと主張している。同時に(その他多くの業界と同様)この「民主化」をもたらす新たなテクノロジーは既存の業界構造を破壊し、また多くの労働者の職を奪う可能性も指摘されている。一方で同社は、業界の全体的な利益を追求する姿勢だ。
以下、Bernold Richerzhagenのコメントをいくつか抜粋し、ダイヤモンド業界の未来図について考察したい。
技術によるダイヤモンドの新たな可能性
現状はほとんどのダイヤモンド原石が(産地に関わらず)インドのカッティング工場に送られており、これは時間とコストがかかることを意味している。また産地と加工地が異なることでトレーサビリティを難しくするという問題も発生する。
DaVinciではこの全てを改革し、(機械は鉱山に設置することも可能で)ダイヤモンドの製造工程は非常に高速化する。原石から完成品までのプロセスを1日で行うことが可能で、トリプルエクセレントは標準化されており、機械による加工はどの手作業よりも高い精度をもたらす。精度は±3μで、人間はこの精度で作業することはできない。
仲介業者を排除する可能性があるか
我々はダイヤモンド製造を「民主化」していると言えるだろう。このマシンの使用に多くの技術的トレーニングは必要なく、誰でも 1週間で操作方法を学ぶことが可能で、また1ヶ月で完璧に操作することが可能だ。それはダイヤモンド取引の中間業者に影響を与え、それはそのうちの幾つかを不必要にする可能性がある。
大手生産者が比較的低コストで製造を開始するのに役立つか?
システムは誰でも、鉱山でも利用可能だ。小規模の鉱山にとっても有益で、ナミビア、アンゴラ、ボツワナの鉱山にとって役に立つ可能性がある。それらの鉱山では一部の商品を現地で加工する必要があるが、専門知識や技術がなく加工が難しい場合もある。しかし、DaVinciはそれを簡単に実現する。
1人のオペレーターは最大5台のマシンを操作でき、1台のマシンはフル稼働で年間最大12,000カラットのダイヤモンドを生産できる。人員は大きく削減することが可能で、一部ではまだ研磨が必要な部分もあるが、以前の7〜8分の1の人員で足りるはずだ。
業界構造の変化について
時間の経過とともに研磨職人の数が減少する可能性は避けられない。しかし、プランニングは必要であり、オフラインで行われる。また地方政府などが状況を理解するにつれ、研磨(作業)よりもプランニングの為のコンピューター操作を学ぶよう教育をサポートする可能性もある。
また、今後インドの業者はアフリカ諸国に知見を提供する必要があるだろう。
将来的に小売業者がダイヤモンドをカットできるか?
将来的には、小売業者はがラボグロウンダイヤモンドや天然ダイヤモンドの原石を購入し、それぞれの地域で加工することができる可能性もある。大手小売業者などは自社でそれができるだろう。プランニングは外部委託も可能で、消費者は特別にカスタマイズされたシェイプのダイヤモンドを注文することも可能になるだろう。
消費者は自動研磨か人間の手作業によるものかを気にするのか?
レーザーカットは現時点では最終的な仕上げとして人間による研磨作業を必要とする。そのため、(ほとんどの部分は機械によって切除されたとはいえ)表面そのものは人間によって加工されたと消費者に説明することが可能だ。
Sarine Technologiesとの可能性
SarineTechnologiesとの協力体制により将来的に、企業がダイヤモンドの製造からグレーディングまでを自社で一括して行えるようになる可能性がある。我々の技術は補完し合っており、市場に最高のテクノロジーを提供できる。
ダイヤモンドサプライチェーン全体としてテクノロジーの普及は、一部の職を奪い、また業界構造を大き変化させ既得権益を覆す「民主化」を起こす可能性が十分にあるだろう。
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