ロシア制裁はDeBeersのトレーサビリティ”Tracr™”を加速させる[RAPAPORT]

5月11日、RAPAPORTは、DeBeers(デビアス)のトレーサビリティシステムであるTracr™について最高ブランド責任者であるDavid Pragerのインタビューを掲載した。

今年に入ってロシアに課された制裁はダイヤモンド業界にとっての様々な課題を生み、これがデビアスのブロックチェーントレーサビリティ”Tracr™”の拡張を加速している。デビアスは最近、Tracr™のスケールアップバージョンを発表、すべてのデビアス供給ダイヤモンドを小売店まで追跡できるようにした。 B2Bツールを使用し、小売業者はサイトホルダーが製造プロセスについて共有した情報を含め、サプライチェーン全体のダイヤモンド経路全体を確認できる。(サイトホルダー:デビアスの原石供給を受けるダイヤモンド製造業者)

デビアスは現在でも依然として巨大なダイヤモンド供給鉱山会社であり、デビアスの動向は世界中全てのダイヤモンド業界へ影響をもたらす。当然日本のダイヤモンド業界にも関係してくることが予想されるので、日本のダイヤモンド及びジュエリー業界関係者への参考として以下にインタビューの要約を紹介したい。

発表前のTracr™の機能はどのようなもので、これらはどのように変更されましたか?

最初の変更は規模で、サイトホルダーが参加できるようになりました。Tracr™の「インスタンス」(アカウント)と呼ばれるもので、各サイトホルダー毎にインスタンスを立ち上げることができます。Tracr™に入ると、研磨して販売するために使用できるダイヤモンドがアップロードされます。
また、Tracr™ルックアップにより、サイトホルダーは小売業者に販売しているダイヤモンドがデビアスからのダイヤモンドであることを証明できます。これは最初のステップであると同時に非常に重要なステップであり、小売業者が購入しているダイヤモンドがデビアスからのものであるという、TracrID番号による保証ツールをサイトホルダーに提供します。ダイヤモンドが(加工によって)形状を変化するたびにサイトホルダーは情報を「インスタンス」にアップロードします。そのダイヤモンドの変化の情報は、そのTracrID番号と紐付き追跡されます。

検証プロセスはどのようなものですか?

例えば小売業者が1.2ct、E、VVSのダイヤモンドを購入したとします。 そしてそのTracrIDがサイトホルダーによって提供されます。小売店はTracr™ (プラットフォームで)このIDを確認し、仕様情報が実際のダイヤモンドと完全に一致することを確認することで、この情報とダイヤモンドが同じものであることがわかります。

ID番号は(ガードル)刻印されていますか?

現在は(ガードル)刻印されていません。将来そうなるかもしれませんが、(現時点での)私たちの焦点は、ダイヤモンドの起源情報を知る必要がある人々のためのソリューションを(早く)市場に出すことでした。実際、現在の(ロシア制裁に関係する)状況では、ダイヤモンドの起源情報を必要とするアメリカの小売業者がますます増えています。彼らは自己申告ではない保証を必要としています。そのため、Tracr™の拡張を急ぎました。ダイヤモンドには番号が付属しており、小売業者はオンライン上で番号を検索し、そのダイヤモンドの全ての仕様を目の前で確認できます。そのダイヤモンドが手元に来る以前の加工段階から原石の状態まで、またデビアスから供給された状態までのすべてのスペックです。

製造過程についてはどのような情報がありますか? どこで誰が加工したか知る事は可能ですか?

サイトホルダーは自身に関する情報をアップロードできます。それ以上の情報を共有するかどうかはサイトホルダー次第ですが、製造場所に関する情報を含めることも可能です。サイトホルダーはデータの管理権限を持っているので、そのダイヤモンドの情報を誰が見ることができるかを独自に決定することができます。

サイトホルダーが最低限共有する必要のある情報は何ですか?

サイトホルダーは彼ら自身について共有する必要はありませんが、サイトホルダーが(小売業者に)ダイヤモンドを販売している限り、小売業者は供給元のサイトホルダーを知ることが可能です。 必要不可欠な情報は、ダイヤモンドがどこから来たのかであり – これがこのプラットフォームの目的ですが – そしてダイヤモンドがそのIDに接続されていることを示すダイヤモンドの識別です。

ラボグロウンダイヤモンドや、デビアスではない異なる起源のダイヤモンドを(Tracr™上のダイヤモンドと)同じ形に加工して、デビアスのものとして流通させないような対策がありますか?

まず、Tracr™自体がその役割を持っています。(Tracr™上の)ダイヤモンドのスペック詳細は厳格です。またサイトホルダーが選択した場合、グレーディング証明(鑑定書)をプラットフォームにアップロードすることが可能で、小売業者はダイヤモンドの正確な詳細及びダイヤモンドの鑑定書を確認できます。またダイヤモンドの画像も確認できるので、そのダイヤモンドが天然かラボグロウンか、そしてそれがデビアス供給のものであるかを確実に知ることができます。 2つ目は、これにオーバレイされた、分割されたサプライチェーンを保証するパイプライン統合フレームワークです。

誰かがTracr™データに完全に一致する4Cのダイヤモンドをカットできた場合はどうなりますか?

それでもまだダイヤモンド及びインクルージョンの画像を見て(比較する)ことが可能で、パイプラインの完全なオーバーレイを言うまでもなく、そのような詐欺を非常に困難にします。
人々が詐欺を試みる可能性は常にありますが、Tracr™が他とは異なり、市場初である理由は、それが(サプライヤーの)自己申告に依存していないことです。 なのでスタート時点からサイトホルダーが所有しているダイヤモンドがデビアスから来ていることは明白であり、その稀なケースで、同じ仕様、同じインクルージョンを持つダイヤモンドがあった場合、それはパイプラインの整合性によりキャッチされます。

以前、デビアスはTracr™を業界に開放すると言いましたが、現時点ではそうではない印象を受けます。

(現時点で)それにフォーカスしていません。世界の状況が変わったからです。我々は世界のダイヤモンド生産の1/3を担っているので、責任感を持っています。我々の最初の仕事は、ダイヤモンドの(トレーサビリティ)保証提供を確実にすることです。そしてそれが拡大し業界にとっての利便性が高まるにつれてその方向性も考えることができるでしょう。

すべてのサイズのダイヤモンドがTracr™に表示されますか?

いえ、それはまだです。 現在、(原石として)1ct以上が対応しています。 様々な新しいテクノロジーを採用して機能を拡張し、サイズ範囲を押し下げることは可能です。 しかし、現在はプラットフォームで可能な限り多くのダイヤモンドを保証し、できるだけ多くの価値を提供することが重要です。 マーケットにはメレサイズダイヤモンドの課題があることを理解しており、私たちのチームは現在、Tracr™のメレサイズへの有用性について取り組んでいます。 それは完全に異なる挑戦であり、私たちはその小さなサイズのダイヤモンドについて協議しています。
(原石重量で1ctなので、研磨済ダイヤモンドとしては0.25ct前後以上に対応するものと考えられる。)

Tracr™には1ct未満の原石を記録する機能は既にありますか?

機能が既にありますが、(現時点で記録しないのは)2つのポイントがあります。 1ct以上の原石を対象に始めるのは、流通するダイヤモンドの価値の大半がそこにあるためです。 サイトホルダーが参加し、流通ボリュームが拡大するにつれて、徐々にサイズを下げていくでしょう。
それとは別に、本当に小さなメレサイズの問題があります。個々のメレサイズダイヤモンドをトレースすることは、信じられないほどの技術的な偉業が必要になります。 私たちは現在様々なソリューションの開発に取り組んでいます。

今年のサイトではどのように役立ちましたか?

我々は長い時間サイトホルダーと協力しTracr™をテストしてきました。今年最初、1月のサイトで約10のサイトホルダーと協力しTracr™をテストしました。これは現在のロシア制裁による影響が始まるかなり前のことでTracr™をスケーリングする計画がまだありました。今重要なのは、サイトホルダーから学ぶことで、運用を可能な限り摩擦のないものにすることです。
*サイトとは、サイトホルダーに原石を供給する年間に限られた回数のイベントを指す。

1月(のサイト)以降、プラットフォームにサイトホルダーを追加しましたか?

はい、サイトの開催毎に新しいサイトホルダーを追加しています。 そして今後更に早いペースで追加する予定です。今年の後半には大多数のサイトホルダーが追加されると思います。サイトホルダーを追加するのは比較的簡単なプロセスです。サイトホルダーが実行する用意ができていることを確認する必要はありますが、Tracr™での「インスタンス」(アカウント)の提供自体は約10分です。それは比較的簡単で、動き出しています。

地政学的状況(ロシア制裁)の影響で加速したと言いましたが、拡張することができますか?

今年は着実なペースでこれを市場に投入する計画でしたが、明らかに状況は変化しました。多くのアメリカの小売業者は、(自社の製品が)制裁に準拠していることを確認したいと思っています。また小売業者は自社の在庫が将来予想される制裁から保護されることを明確にしたいと思っています。そして、原産地証明付きのダイヤモンドを求める自店の顧客に保証を提供できるようにしたいと考えています。 重要なのは、それら小売業者はビジネスリーダーとして、ビジネスの運営、在庫、購入するものについて安心したいと思っているということです。そしてその全てが私たちを「持っているテクノロジーを早く市場に提供するように」と駆り立てたのです。

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