ラパポート主催、3月19日のGEMTalks LinkedIn Liveにて、GIA特別研究員のジェームズ・E シグリー博士が、ダイヤモンド自体から原産地を特定する科学的困難について説明した。
G7がロシア産ダイヤモンドの輸入禁止措置を決定、執行するなど世界情勢が大きく変わる中、ダイヤモンドの原産地証明には世界中のダイヤモンド業界が注目している。その中で多くの人が関心を持っているのは「ダイヤモンドそれ自体から原産地を逆算して特定できるか」ということだ。
ダイヤモンド以外の宝石の原産地特定に関して
いくつかのカラーストーン(宝石)の基礎となる概念として、産出される地質学的特性は、母岩が形成された地質環境に部分的に基づいており、異なる鉱床からのカラーストーンは異なる宝石学的特性を持つと仮定されるが、実際には常にそうとは限らない。
特定の宝石鉱床は国境を越えており、そのような境界の両側から産出されたカラーストーンの特徴は類似したものになる。また別々の鉱床がある場合でも非常に似た特徴を持つ可能性があり、どの鉱床でも様々な品質のものが産出され、一般的に高品質のものは希少だ。そのため産地を特定するには特定の産地から採掘されたカラーストーンのデータベースとデータ収集分析手順が必要になる。つまりクライアントのカラーストーンから得た情報を、産地毎のデータベースと比較して分析し判断するということだ。カラーストーンの原産地レポートは検査のために提供された宝石の特性を検査し、GIAの経験と専門知識に基づいて発行される。
ダイヤモンドの原産地特定に関して
地表に近い異なる母岩で形成されるカラーストーンと対照的に、ダイヤモンドは地球深部で形成され、その地質条件は非常に似ている。高品質のダイヤモンドはほぼどの鉱床でも産出され、診断可能な視覚的特徴はほぼなく、また微量元素を研究及び分析するためのダイヤモンドの検査母体も存在しない。その為少なくとも現在の技術ではダイヤモンドの産地を逆算して特定することは不可能だ。
ダイヤモンドの産地判定の課題の一つはカラーストーンとは対照的に、ダイヤモンドには産地を視覚的に診断できる特徴がまったくないことだ。ほとんどのダイヤモンドは独特の特徴を示さない。また二つ目の課題は、この問題を実際に解決しようとする場合、全ての鉱床からのダイヤモンドを検査しデータベースを作成する必要があるということだ。これはキンバーライトパイプ鉱山である一次鉱床と、ダイヤモンドが発見される二次鉱床を意味する。研究のためにこのコレクション作成するのは数十万の鉱山のダイヤモンドを調べることになり、また二次鉱床のコレクションを作成するのは更に困難を極める。
ダイヤモンド原産地特定の可能性
原産地特定について唯一の可能な指標は微量元素だが、これを検出して測定するのは非常に難しくまた費用がかかる。しかしそれ以上に課題なのは世界中のすべての鉱山をサンプルしたデータベースが存在しないことだ。またこの微量元素の特定をすることは800万人の中からたった8人を特定することに等しい。ダイヤモンドの微量元素を分析するとパターンがあるが、化学パターンはマントルの地質学的過程を反映しており、地球の表面で発見されているダイヤモンドとは何の関連もない。つ微量元素から原産地を特定することは現在は科学的に不可能だが、原産地決定に関する科学的研究が現在いくつか行われており、将来的にそれが可能になる可能性もあるという。
ただ、実際にこの問題を解決するにはサンプルが足りないという問題があり、すべてのダイヤモンドを分析するには何年もかかる可能性がある。また研究のためにダイヤモンドを入手できたとしても、何年も多額のお金と努力を費やして結局は何もわからないという結果に終わる可能性もある。
原産地レポートとは何か
科学的にダイヤモンド自体から原産地を特定できない以上、原産地証明に対しては慎重になる必要がある。GIAでは現在オリジンレポートを発行しているが、これは実際にはマッチングレポートだ。つまり、ダイヤモンド原石の状態でそれを検査し、研磨した後に改めてダイヤモンドを検査し、それらが一致するかを検査する。GIAによるとこのマッチングの成功率は約90%だという。つまりこれはダイヤモンド原石から研磨ダイヤモンドまでのプロセス管理に似ている。(現在市場に存在する第三者原産地証明は基本的にこのアプローチを取っている。)
ラボグロウンダイヤモンドの特定について
天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの重要な違いは、長い期間をかけて地中で成長したものか、ごく最近研究室で成長したものかということだ。つまり、地球上で急速に成長したものと比べて、地下の高温高圧化の環境に何百万年も存在していたダイヤモンドには様々なことが起こる可能性があるということだ。そのため、ラボグロウンダイヤモンドは天然ダイヤモンドの化学的性質や特性を再現できるが、その長い地質の歴史の証拠を再現することは不可能だ。そしてそれらの違いはGIA(及びその他の研究機関)で確実に識別できる。
また現在では多くのダイヤモンドテスターが販売されており、例えばGIAのID100は蛍光分光法を使用し、ダイヤモンドのルース、セッティングされたダイヤモンドを検査することが可能だ。
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