AI自動グレーディングの革命 [RAPAPORT Webinar]

2022年5月17日、”Fast-Tracking the Future”と題されたRAPAPORTの3部構成のウェビナーの最後のパート”Automated Grading and the AI Revolution(AI自動グレーディングの革命)”が開催された。
今回はRAPAPORTのJoshua Freedmanがモデレーターを務め、パネリストとしてこの分野に知識と経験つ4人、ダイヤモンドテクノロジー企業であるSarineTechnologiesからCEOのDavid Block、大手ダイヤモンドカッティングファクトリーであるKGKから最高製造責任者であるNitin Kumar Dhadda、米国宝石学協会(GIA)のCOOであるPritesh Patel、アメリカ大手ダイヤモンド商社RDI DiamondsのオペレーションVPであるAndrew Rickardが参加した。

パネリスト達は、AI(人工知能)が人間のグレーダー(ダイヤモンド鑑定士)よりも正確かどうか、利点と期待される効果及び課題、システムをどのように不正から保護するか、また、業界がそのような大きな一歩を踏み出す準備ができているかについて議論を展開した。

まずAIグレーディングについてDavid(Sarine)は「人間ではなくAIが行うグレーディングは、人間が行うプロセスをそのままAIが行う、ただし大量のデータで学習を重ねることによって人間のグレードとの大きな違いが出る。」と説明。「大きな違いは、常に一貫性のある同じアクションを繰り返せることだ。人間は(気温、体調、感情などの)コンディションに左右され、それがグレーディングに影響を与える。テクノロジーによるグレーディングは、人間の方法を模倣しながら正確で一貫性のあるグレーディングを実現する。」と続けた。

KGKのNitinは「AIのメリットは自動化であり、グレーディングの自動化は(製造分野の観点から)品質管理プロセスと製造に将来的に幅広いメリットがもたらされる。」との見解を示した。

GIAは長い間グレーディングの自動化を研究している。Priteshは「GIAは長年に渡り自動グレードの研究開発に多くの投資をしてきた。一貫性を保つ為には人間の主観性についての理解が必要になる。課題として、天然とラボグロウンの判別、またダイヤモンドにトリートメント(改変)処理が施されていないかの判定の自動化は現時点では技術的に難しいだろう。この判断は消費者と業界の信頼において非常に重要性が高く、現時点では人間が行う必要がある。4Cの判定に関しては自動化が可能だろう。」と述べた。

アメリカの大手ダイヤモンド商社であるRDI Diamodnsは既に自社のブランド「Rare & Forever」でAIグレーディングを採用している。Andrewはその背景について次のように説明した。「我々は小売店から、従来のグレーディングの一貫性に対してのフラストレーションを感じているというフィードバックを受け取っていた。消費者や小売店から、より一貫性のある(鑑定を持つ)商品が欲しいと要望されており、自分のダイヤモンドを(鑑定機関に)送った際に、添付されている鑑定書と完全に同じ結果が得られる事が求められていた。」

実際にAI鑑定はどのくらいの精度を持つのか。Pritesh(GIA)は「自動グレーディングは何十年にもわたる投資と開発で改善を続けている。基本的な情報に加え何百万に及ぶデータを収集、グレードの様々な幅と深さで一定の期間学習を重ねることによって、人間の学習より優れた点を得る事ができる。人間とテクノロジーの利点を組み合わせながら、グレーディングは改善を続けている。現時点においては、(例えばポリッシュ – 表面の仕上げ状態 – の評価など)特定のカテゴリーにおいては人間のグレーディングを必要とする部分がある。」と説明した。

David(Sarine)は、「AIグレードはマニュアル(人間による)グレードをはるかに超えた一貫性を実現する。世界中どの組織やラボとであっても、マニュアルグレードとテクノロジーグレードの一貫性を比べるチャレンジをする事ができる。」と自信を示した。

KGKのNitinは製造部門におけるテクノロジーのメリットを次のように説明した。「ダイヤモンドの製造工程は96で完成するが、そのうちの60ほどは人間の判断や決定を必要とする工程だ。それをAIに置き換える事が可能であれば加工の段階で正確性が増加する。現時点では製造を開始する原石の段階で見積もったグレードと、完成後に鑑定機関から提出されたグレードは30%-40%の誤差が生じている。これは原石の状態及び完成後の状態を人間が見ているその違いによって引き起こされており、AIの導入でこの部分の精度が増せば、精度の高いカットプランニングが可能になり、コストのリスクが下がることを意味する。別の側面としては、クライアントからのグレードのオーダーに対する精度が上がり生産効率と在庫効率が上がる。以前30-40%の期待グレードからのずれが生じていたものがAIの導入によって5-10%の誤差になる事が期待できる。そのためクライアントの希望するグレードのダイヤモンドを届ける事が可能になり、在庫ロスも低減する。」

David(Sarine)は、「精度と一貫性以外の部分で言えば、テクノロジーを生産場所に設置することによって(つまり研磨工場でAIによるグレーディングを行うことによって)金銭的及び時間的コストを劇的に改善する事ができる。遠い鑑定機関までダイヤモンドを発送することによって生じる1ヶ月から1ヶ月半ほどの時間、及び送料や輸送保険のコストを解決する事ができ、これはレンタルビデオがNetflixに置き換わったのと同じような革命を意味するだろう。」と利点について説明した。

RDI DiamondsのAndrewは消費者からの目線として「消費者は何よりも正確性を望んでいる。正確性は価値を意味する。消費者は、自分が支払った金額に対して見合った価値のものを手に入れていることを確実にしたいということだ。つまり、消費者は添付されているレポート(鑑定書)が手にしている商品と必ず同じであるということを求めている。」としてグレードの一貫性の重要性、そしてAIグレードのメリットについて説明している。

一方で、テクノロジーの導入は雇用を妨げたり既存の職を奪うのではないかという懸念もある。
これに対してGIAのPriteshは「この問題は既に我々は経験がある。かつてカラーグレードの自動化をしたが、それ以降も鑑定士の数は増え続けている。テクノロジーは人間の役割を奪う訳ではなく、テクノロジーの導入はより多くのダイヤモンドの鑑定をすることを可能にし、より多くの消費者を保護することを可能にしている。将来的にもAIと人間は同じスペースで共同作業をするようになるだろう。」と述べた。

SarineのDavidもこの懸念に関しては否定し「テクノロジーの進化は、その分野で働く人間をその環境に適合させ始める。実際は雇用を促進する側面もあり、テクノロジーの導入が進むと人々は高度なテクノロジーの扱いに取り組み始める。例を挙げると、かつてダイヤモンド原石のカットプランニング(計画)はルーペを使用して人間が行っていた。現在インドでは10万人を超える人間が同じタスクを(Sarine社などのプランニング自動化テクノロジーを利用して)最先端の工場で行っている。以前のスキルをはるかに超えた精度でテクノロジーが作業を向上させている。テクノロジーの導入は仕事が変わり、進化することを意味する。5年後には今より多くの人間がグレーディングに携わるようになるだろう。テクノロジーの導入によってグレーディングコストが下がれば(今までグレーディングしなかったような)低価格のダイヤモンドやサイズの小さいダイヤモンドも積極的にグレーディングされるようになり、グレーディングの市場が拡大するはずだ。」と説明した。

またQ&Aセクションでは視聴者から「第三者グレードは客観的なグレードの保証を意味していると思うが、工場がグレーディングをすることによって公平性に危険が生じる可能性はあるか」との質問があった。これに対してSarineのDavidは「おそらく誤解があると思うが、工場がグレーディングをする訳ではない。工場はダイヤモンドをスキャンし、そのデータをただ我々のクラウドにアップロードする。データは自動的に分析、グレーディングされるため、グレーディングそのもの自体は第三者によって自動的に実行されることになる。人間が結果に影響を与えることはできない。」と回答した。

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