中国の越境ジュエリーブランド「Stepin」は最近エンジェルラウンドの資金調達を完了し、数千万元(数億円相当)の投資を受けたと発表した。この資金は、製品開発、技術研究開発、チャネル拡大、専門人材の採用、国内市場でのインテリジェントな製品テストの実施に使用される予定だという。
StepinはジュエリーのAI越境ECを特徴としており、AI技術と中国のサプライチェーンの優位性を活用して『小单快返』という迅速な新商品発売と高回転のモデルを実現している。『小单快返』とは、異なる商品を少量生産して市場テストを行い、そのデータフィードバックを通して売れ筋のモデルに注力し、利益を最大化し同時に在庫を最小化するビジネスモデルだ。この『小单快返』モデルは同じく中国の越境ECアパレルブランドであるSHEINが採用していることで知られている。つまりStepinはジュエリー業界のSHEINを目指している。(SHEINは2022年時点の時価総額で1,000億ドルを突破しており、ZARAとH&Mを合わせた時価総額をも上回っている。)
「2023年世界アクセサリー産業消費動向報告書」によると、ファッション消費に対する意識の高まり、アクセサリーECの浸透、3D生成と3Dプリント技術の発達により世界のファッションアクセサリー市場は回復している。市場規模は成長を続けており、2025年には7,800億ドルを超えると予想される。
Stepinの創設チームはTikTok、抖音(中国版TikTok)、テンセントの出身者などからなっており、創設者であるRonnie Zhouは多くの企業経験を持っている。また同チームには香港大学人工知能チームメンバーやアクセサリー業界の専門家が含まれており、豊富なジュエリー・アクセサリー越境ECの経験を持っている。Ronnieは、TikTokコンテンツECの台頭、AIなどの技術革新、世界で最も優位性を持つ中国ジュエリーサプライチェーンはこのビジネスモデルにフィットしており、将来的には同業界のSHEINになるだろうと述べた。
『小单快返』によりジュエリーのSHEINへ
他の商材と異なり、消費者はジュエリーに対して異なる好みを持っており、そのためジュエリー業界が「大ヒット商品」を生み出すのは困難だ。これは逆に言うと、より多くの新製品が出ることで流通総額が増えることを意味している。
「なぜジュエリー業界は大量のバリエーションの新製品を発売することが少ないのでしょうか。」とRonnieは述べる。これに対して彼は、一般的にジュエリー業界では新商品を発売の1−2ヶ月前に準備する必要があり、大量のバリエーションを新発売すると大きな在庫の問題が引き起こされると説明した。 『小单快返』モデルは在庫プレッシャーと新製品発売スピードのバランスをとるためのポイントであり、これには設計段階から納品サイクルまでの全体と大幅に圧縮する必要がある。
ジュエリー、アクセサリーデザインに関して言えば一般的に、ブレインストーミング、デザイン画の作成、3Dモデル作成まで完全に人力に依存しており、速度が遅くスループットが低い。しかしAI技術の急速な発展はこの分野に新たな可能性をもたらした。2022年にAI生成画像が一般的になってからデザイン分野での応用が徐々に進み、また同時に生成AIによる3Dモデルも2023年から急速に発展し映画やテレビ、ゲーム分野で広く使われるようになった。これにより工業生産方向でも利用範囲が広がっている。
「今年末から来年にかけて工業生産AIは実用可能なレベルに達する可能性があり、アイデア段階から納品までの時間を最速で1週間程度まで短縮できる可能性があります。これはアパレル業界の柔軟な開発サイクルと同等です。」とRonnieは語っている。
現在StepinではAIをクリエイティブの一般化、デザイナーが微調整する比較的初歩の3Dモデルの生成に応用しており、今年の6月には1人で100以上の新製品リリース規模を達成した。同社ではモデルの精度と使いやすさの向上に重点を置いているという。
ジュエリーとプラットフォームの親和性
テクノロジーによってもたらされるサプライチェーンの革新可能性に加えて、ジュエリー業界の2番目のチャンスはチャネル側にもある。
Ronnieは、TikTokの電子商取引は過去3年間東南アジアで成功裏に運営されており、2023年の取引規模は180億ドル近くになるだろうと指摘した。TikTokは昨年米国市場での電子商取引を開始し、同年の1日の平均取引額は3,000万ドルを超えた。今後多くの国で電子商取引モデルを検証し、徐々にヨーロッパ、南米、その他の地域にも展開を拡大する予定だ。TikTok-ECは今後3~5年で世界各地で利用できるようになると推定される。
中国国内市場ではジュエリーやアクセサリーはショートビデオ/ライブブロードキャストとの親和性が高く、2020年以降、抖音(中国版TikTok)で有力なカテゴリーとなっている。 2023年の双十一(11月11日のネットのセール日)を例に挙げると、抖音ではジュエリーの売上が増加しており、真珠製品の売上は前年比366.17%、金とダイヤモンド製品の売上も前年比130.64%となった。
「それに比べて海外市場でのTikTokにおけるジュエリー販売はまだ初期段階にあり、業界の1%を占めるほどです。このカテゴリーには大きな改善の余地があり、新しいチャネルによる市場拡大の可能性があります。」とRonnieは語った。
TikTokの他にStepinはTemuでも定着しており、Temuが今年初めに立ち上げた半管理モデルでも多くのトラフィックをもたらした。サプライチェーンモデルの再構築とこの新しいチャネルの利用により、Stepinは1か月でおよそ100万ドルの売上を達成している。
次のステップについてRonnieは、同社は引き続き北米市場に注力し、次の段階では中東と南米市場に拡大する可能性があると述べた。今年下半期のビジネスの焦点は2つの側面があるという。1つ目は、新製品を月間400~500に拡大することだ。2つ目は、トラフィックの規模と効率を拡大することだ。Stepinは現在、TikTokプラットフォーム上のショートビデオのナチュラルストリームに重点を置いており、有料ストリームやライブブロードキャストなどまだまだ拡大する余地を残している。
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