ダイヤモンド業界は複雑性を増しつつある。世界最大の市場である米国の小売データは7月にある程度回復したように見える(アパレルとアクセサリーの小売総額は前月比+0.6%)。しかしその一方で、ダイヤモンド業界の中心地のひとつであるインドでは、企業の閉鎖や休業、それに伴う従業員の自殺などのネガティブなニュースが頻繁に報道されている。
一部のメディアは、インドダイヤモンド労働組合グジャラート支部(DWUG)の見解を引用し、インド政府が介入してダイヤモンド業界を支援するべきであり、そうでなければ現在の不況を踏まえると業界は「崩壊する可能性がある」と述べた。スーラトには自殺防止ホットラインが設置され、設置からわずか20日間で1,500件以上の電話があったという。多くの労働者の収入が減少しており、インド政府はダイヤモンド業界が直面している危機を重視せざるを得なくなっている。
このインドのパニックはデータによって裏付けられる。インド宝石ジュエリー輸出促進協議会(GJEPC)が7月に発表したインドのダイヤモンド輸出入データによると、天然ダイヤモンド、ラボグロウンダイヤモンド共に前年同期と比較して引き続き縮小傾向を示している。
天然ダイヤモンドに関して、7月のダイヤモンド原石の輸入額は9億1,300万ドルで、前年比マイナス17.18%、ポリッシュダイヤモンドの輸出額は9億800万ドルで、前年比マイナス22.71%となっている。カラットベースで見ると、輸入量は781万カラットで前年比マイナス31.10%、輸出量は124万カラットでマイナス20.30%となっている。
ラボグロウンダイヤモンドに関しては、7月の原石輸入額は8,563万ドルで前年比マイナス26.75%、ポリッシュダイヤモンドの輸出額は9,472万ドルで前年比マイナス10.21%となった。
この縮小により、ダイヤモンドサプライチェーン中流の収益は減少している。Kiran Gemsは10日間の操業停止を決定し、Asian Starの単四半期業績は前年同期比マイナス18%と報告している。
このような状況の中、8月11日にファロス・ビーム・コンサルティングの代表であるプラナイ・ナーヴェカールはGJEPCで講演し、現在の最大の脅威は「ダイヤモンドの夢」の持続可能性にあると主張した。これは言い換えると、消費者が天然ダイヤモンドへの憧れを持ち続けられるか、天然ダイヤモンドを追求する価値があると今でも思っているかどうかが業界の将来性を左右するということだ。
ナーヴェカールはラボグロウンダイヤモンドの支持者ではない。同氏は、ラボグロウンダイヤモンドが天然ダイヤモンドの「代替品」として販売されており、これが天然ダイヤモンドの価値と市場の下落につながり、結果的にラボグロウンダイヤモンド市場の下落をも引き起こすと主張している。
マクロレベルで見ると、天然ダイヤモンド業界の現状は15年前の金融危機に似ているが、一方で別の問題にも直面している。
米国のインフレが緩和し、中国の景気が回復すればダイヤモンドの需要はある程度回復すると考えられるが、それでもサプライチェーン上流の大手鉱山会社はまだ多くのダイヤモンド原石在庫を抱えており、中流は雇用を確保するため大量に生産する必要がある。このような供給過剰に陥らざるを得ない状況で、小売業者の手に渡るダイヤモンドの価格を上昇させるのは難しいという問題がある。
RAPI(Rapaport Price Index)の過去2週間のデータによると、0.30ct、0.50ct、1.00ct、3.00ctのそれぞれのカテゴリーで価格が下落している。しかしその中で0.50ctは実際にはわずかな下落で、過去1週間では上昇を見せている。この回復の兆しは数少ない良い兆候だが、年間スパンで見ると下落は大きく、今後についての見通しは不明なままだ。
楽観的な予測としては今年の第4四半期に状況が安定し、その後2025年には緩やかな回復が続くと見込まれている。しかしその前提条件は2つある。「サプライチェーン下流の経済回復」「需要と供給の厳格な管理」だ。
全体として、現在のダイヤモンド業界は前例のない課題に直面しており、将来は不確実性に満ちている。今後数年間でどれだけの企業が組織再編でより強くなり、または排除されるのか、消費者の社会意識にどのような変化が起こるのか、世界情勢がどう変化するのか、そしてラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドで市場を分割できるのかという未知の要素が多いからだ。ダイヤモンドに関連する企業は、時代の変化に合わせ柔軟に対応していくことが求められている。
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