幻のブルーダイヤモンド「メロン・ブルー」、再びオークションへ

予想落札価格は最高45億円、11月にクリスティーズ・ジュネーブに出品

世界で最も希少な宝石の一つである「メロン・ブルー」ダイヤモンドが、今年の11月11日にクリスティーズ主催のオークションに登場することが明らかになった。この9.51カラットのファンシー・ビビッド・ブルー、インターナリー・フローレスのダイヤモンドは、ジュネーブで開催される「マグニフィセント・ジュエルズ」オークションの最高峰として出品される。予想落札価格は2,000万ドルから3,000万ドル(約30億円~45億円)にのぼり、その卓越した品質と歴史的背景から、宝飾業界および世界のコレクターから熱い視線が注がれている。

【スポンサー広告】

伝説の慈善家が愛した至宝

このダイヤモンドは、かつて米国の著名な慈善家であり、園芸家、アートコレクターでもあったレイチェル・ランバート・メロン夫人(通称バニー・メロン)が所有していたことで知られる。メロン夫人は、ジャクリーン・ケネディと共にホワイトハウスのローズガーデンを改修したことや、ジバンシィ邸のランドスケープデザインを手掛けたことでも有名である。クリスティーズは「バニー・メロンは洗練とエレガンスの象徴であり、彼女の宝飾品への鋭敏な審美眼は、インテリアや庭園に向けるそれと同じであった」と評しており、このダイヤモンドが単なる宝飾品ではなく、一流の審美眼によって選び抜かれた芸術品であることを物語っている。

メロン・ブルーは2014年、サザビーズ・ニューヨークのオークションにて3,260万ドル(当時のレートで約48億9,000万円)で落札され、カラーダイヤモンドのオークション史上最高額の一つとして記録を打ち立てた。今回、約10年の時を経て再び市場に姿を現すことで、その価値がどこまで高まるのか、業界の注目が集まっている。

科学が解き明かす青色の神秘と希少性

ブルーダイヤモンドの魅惑的な青色は、その結晶構造内に含まれるごく微量のホウ素に起因する。ダイヤモンドの炭素原子がホウ素原子に置き換わることで、石は赤色や黄色の光を吸収し、鮮やかな青色光のみを反射する。この現象が起こるためには、地球深部のマントルで、他のダイヤモンドよりもさらに過酷な超高圧・高温という極めて特殊な環境が必要となる。

このホウ素がどのようにして地球深部へもたらされたのかは、未だ解明されていない地質学的な謎の一つである。古代の海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む「サブダクション」によって運ばれたとする説もあるが、確定には至っていない。米国宝石学会(GIA)によれば、放射線や水素の存在が青色の原因となるケースも報告されている。

いずれにせよ、これら奇跡的な条件が重なって生まれる天然のブルーダイヤモンドは、産出される全ダイヤモンドの0.02%未満という驚異的な希少性を誇る。組成がコランダムであるブルーサファイアと比較すると、自然界での存在量は推定で1万分の1以下とされ、その価値は比類なきものである。

歴史に名を刻むブルーダイヤモンドたち

メロン・ブルーは、過去にオークションを沸かせた数々の伝説的なブルーダイヤモンドの系譜に連なる存在である。

  • ホープ・ダイヤモンド: 45.52カラット。「呪いのダイヤ」の伝説で知られ、現在はスミソニアン博物館に所蔵される世界で最も有名なブルーダイヤモンド。
  • ウィッテルスバッハ・グラフ・ダイヤモンド:31.06カラット。かつてオーストリアとバイエルン王家の至宝であった歴史的ダイヤモンド。2008年に約2,400万ドル(約36億円)で落札された。
  • ブルー・ムーン・オブ・ジョセフィン: 12.03カラット。2015年に4,840万ドル(約72億6,000万円)で落札され、1カラットあたりの価格で世界記録を更新した。
  • オカバンゴ・ブルー: 20.46カラット。ボツワナで発見された同国史上最大のブルーダイヤモンド。国の至宝としてオークションには出品されていない。

オークション市場の活況と今後の展望

これらの歴史的なダイヤモンドと肩を並べるメロン・ブルーの出品に際し、クリスティーズの国際ジュエリー部門責任者であるラフール・カダキア氏は、市場への強い自信を見せている。「クリスティーズは2025年上半期、オークションで落札されたトップ10の宝飾品のうち9点を扱い、前年比25%の成長を達成した。この勢いを背景に、我々は自信をもって『メロン・ブルー』を発表する。アメリカの『庭園の女王』が所有したこの素晴らしいファンシー・ビビッド・ブルーダイヤモンドは、オークション史上最も優れたカラーダイヤモンドの一つである」とコメントした。

卓越した品質、完璧なクラリティ、そしてバニー・メロンという比類なき来歴。メロン・ブルーは、ジュネーブの夜を彩るだけでなく、現代における最も重要なブルーダイヤモンドとして、その歴史に新たな1ページを刻むことになるだろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました