架空ダイヤ取引疑惑と高級宝飾ビジネスのガバナンスリスク

米ニューヨーク証券取引所上場の投資会社コンパス・ダイバーシファイド(CODI)が傘下に収めていた高級宝飾ブランド「ルガノ・ダイヤモンズ」を巡る不正会計・架空取引疑惑が、米宝飾業界および金融市場に大きな波紋を広げている。子会社の不正を受け、コンパスは連結決算の大幅修正を余儀なくされ、株価は過去1年で約70%下落。時価総額はピーク時の約20億ドルから約5億ドル規模へと縮小した。

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1100万ドルのダイヤ紛失が発端

発端は、評価額1100万ドル(約16億7000万円)の6.43カラット、ペアシェイプのブルーダイヤモンドだった。ニューヨークのスカルセリ・ダイヤモンズが2025年1月、ルガノに委託した同石が返却されなかったことから訴訟へ発展した。スカルセリ側は事前に数カ月にわたりデューデリジェンスを実施し、総額4400万ドルの委託取引を問題なく完了していたと主張している。

トラブル当時、ルガノ元CEOモルデカイ(モティ)・ファーダーは、母国イスラエルを訪問中で、そのまま戻ってくることはなかった。その後の内部調査で、ファーダーが売上高を水増しするため架空取引を計上し、実在しない在庫や未報告の資金調達を簿外で処理していた疑いが浮上した。SEC提出書類の修正により、2024年売上は当初公表値より85%低かったことが判明している。

投資スキームの実態と未計上債務

問題の核心には、富裕層顧客に特定ダイヤの持分を販売し、最終売却時の利益分配を約束する投資スキームがあったとされる。帳簿上は売上計上されていたが、実際には返済義務を伴う負債であり、外部会計士は約1億8400万ドル(約280億円)の債務再計上が必要と判断した。

一部投資家は、月10%という異例の高利回りが約束されたにもかかわらず、支払いが停止したと主張している。ルガノ側は元CEOによる不正行為を主張する一方、ファーダー側弁護士は「高級宝飾業界では一般的な慣行」と反論し、責任の所在を巡る法廷闘争が続いている。

管理料モデルの構造的課題

また、コンパスのビジネスモデルも厳しく問われている。同社は子会社の「調整後純資産」に対し約2%の管理料を徴収し、一定条件下で追加インセンティブを得る仕組みを採用していた。ルガノの在庫は2024年末時点で約7億ドル(約1064億円)と報告されており、その評価を基礎に約1400万ドルの管理料が発生していた計算になる。

結果として、在庫価値の過大評価が経営陣報酬に直結する構造となっていた可能性が指摘される。連結決算修正後、コンパスは2024年に2億900万ドル(約318億円)の赤字へ転落し、約18億ドルの債務不履行に陥った。銀行団との返済猶予合意では管理料半減、経営陣報酬返還などが盛り込まれている。

ルガノ破産と事業売却

ルガノは2025年11月に連邦破産法11条を申請し、残存事業はゴードン・ブラザーズ傘下へ売却された。現在も一部店舗は営業を続けるが、ブランド価値は大きく毀損した。

ガバナンスの重要性

これにはガバナンスの重要性が含まれている。第一に、ダイヤモンドの持分販売や共同投資モデルにおける法的整理の重要性だ。売上計上と負債計上の区分を誤れば、財務の透明性は一瞬で失われる。

第二に、在庫評価と内部統制の問題だ。高額在庫を抱える宝飾業では、実地棚卸と所有権確認の徹底が不可欠である。

第三に、ブランドと金融の融合リスクである。高級宝飾ブランドが投資商品化する過程で、金融規制や開示義務への理解が不十分であれば、市場信頼は急速に崩壊する。

ルガノはかつて売上4億7100万ドル、EBITDA1億9500万ドルという急成長を誇った。しかしその実態は、財務構造と統治体制の脆弱さを内包していた可能性が高い。

日本市場でも、富裕層向けのダイヤモンド持分投資や共同所有スキームの提案は徐々に増加している。近年はさらに、NFTやブロックチェーンを活用し、「特定のダイヤモンドの所有権をトークン化する」「希少石の価値をデジタル証券として小口販売する」といった新たな資金調達モデルも登場している。しかしこれらの仕組みは、構造を誤れば極めてポンジスキームに近い性質を帯びる危険性をはらむ。

典型的なのは、実物の所在や所有権が不明確なまま持分だけが販売され、後続投資家からの資金で先行投資家への配当や利息を支払うケースだ。ダイヤモンドという「実物資産」が存在するという安心感が、投資家の警戒心を鈍らせやすい。さらにNFT等によるトークン化は、所有の真正性や流動性が保証されているかのような印象を与えるが、裏付けとなる現物管理、保管証明、担保設定、信託構造、破産隔離といった法的整備が伴わなければ、単なる資金集めの器にすぎない。

宝石は本来、永遠の価値を象徴する存在だ。しかし、透明性を欠いた取引は、その輝きを一瞬で曇らせる。

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