「synthetic」の世界統一は解決になるか、WFDB会長が提起した『現地語』という新たな論点

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CIBJO決定直後に浮上した、もう一つの呼称論争

ラボラトリーグロウンダイヤモンドをどのような名称で呼ぶべきかを巡る国際的な議論に、新たな視点が加わった。

World Federation of Diamond Bourses(WFDB、世界ダイヤモンド取引所連盟)のMehul Shah会長は、ラボラトリーグロウンダイヤモンドの呼称について、英語の用語を世界で一律に定めること以上に、それぞれの国・地域の消費者が理解できる現地語で明確に表示することが重要だとの考えを示した。

Shah会長は「われわれの主要な課題は、消費者の認知と保護であるべきだ」とし、国や地域によって言語も用語も異なる以上、「lab-grown(ラボグロウン)」と「synthetic(合成)」のどちらを採用するかだけに議論を集中させるべきではないとの立場を示した。さらに、実際に規則を強制できるのは各国政府であり、業界団体は政府に対して、消費者が理解できる現地語による明確な表示ルールを求めていくべきだと主張している。

CIBJO(世界ジュエリー連盟)はこの直前、イタリア・ヴィチェンツァで開催された2026年大会を経て、天然と同じ化学組成、物理的特性、結晶構造を持つ人工生産物について、国際的なコミュニケーションでは「synthetic(合成)」を唯一の推奨表現とする方針を決定した。CIBJOは「laboratory-grown」や「laboratory-created」が一部の法域では認められた消費者向けマーケティング用語であることを認めながらも、国際的には「synthetic」が最も曖昧さの少ない表現であるとしている。

CIBJOが「国際的な用語の統一」を打ち出した直後に、世界の主要ダイヤモンド取引所を束ねるWFDBの会長が、「重要なのは英語の単語を一つに決めることではなく、消費者が実際に理解できる言葉である」と別の角度から問題を提示したことになる。

「正しい言葉」と「伝わる言葉」は同じか

今回の論争には、宝石学上の正確性と消費者コミュニケーションという二つの論点が混在している。

CIBJOが「synthetic」を支持する理屈は比較的明快だ。天然に存在する物質と基本的に同じ化学組成や結晶構造を持つものを人工的に生成した場合、宝石学では伝統的に「synthetic ruby(合成ルビー)」「synthetic sapphire(合成サファイア)」などと表現してきた。同じ考え方をダイヤモンドにも適用すれば、「synthetic diamond(合成ダイヤモンド)」が最も体系的であり、他の宝石との用語上の整合性も高い。

CIBJOのDiamond Commissionは2025年からこの問題を検討しており、2010年に「laboratory-grown」「laboratory-created」を「synthetic」と並ぶ表現として認めた従来の方針を見直してきた。2026年の特別報告でも、国際的な宝石用語は科学的に正確で、一貫性があり、商業的な曖昧さを排除する必要があるとの考えが示されている。

一方で、WFDBのShah会長が問題にしているのは、それとは別の角度だ。

どれほど科学的に正確な英語を採用しても、その英単語を消費者が理解できなければ、消費者保護という目的は達成できない。英語を母語としない国では、「synthetic」と「laboratory-grown」のニュアンスそのものが伝わらない可能性がある。

Shah会長は、呼称は「理解され、受け入れられ、実行されて初めて意味を持つ」と指摘した。さらに、グレーディング機関のレポートについても、現地語を使用することを提案している。

ここに国際標準化に共通する根本的な問題がある。「世界共通の言葉」と「世界中の人が理解できる言葉」は、必ずしも同じではない。

日本では「synthetic」が「合成」になる

この問題は日本市場に置き換えると理解しやすい。

日本ジュエリー協会(JJA)は、人工的に生産されたダイヤモンドの日本語表記を「合成ダイヤモンド」としている。日本では1994年にJJAと宝石鑑別団体協議会(AGL)が制定した「宝石もしくは装飾用に供される物質の定義および命名法」において、天然に対応物が存在する人工生産物を「合成石」と整理しており、人工的に製造されたダイヤモンドは「合成ダイヤモンド」とされる。したがって、宝石学的な日本語として考えれば、synthetic diamond=合成ダイヤモンドという翻訳には一定の整合性がある。

しかし、一方で考慮するべき問題が、一般消費者が「合成」という日本語から何を連想するかだ。

宝石学における「synthetic」は、天然に存在する物質と基本的に同じ化学組成や結晶構造を持つ人工生産物を示す専門用語だ。一方、日本語の日常語としての「合成」は、「合成写真」「合成皮革」「合成香料」などにも用いられる。そのため消費者によっては、「ダイヤモンドに似せて作った別物」や「模造品」に近い意味として受け取る可能性が高い。

実際には、ラボラトリーグロウンダイヤモンドはキュービックジルコニアやモアサナイトのようなダイヤモンド類似石とは異なる。天然ダイヤモンドと基本的に同じ炭素結晶であり、化学的・物理的・光学的特性を共有している。人工的に生成されたという「起源」が天然ダイヤモンドとの主要な違いだ。AGLも、合成ダイヤモンドについて「偽物ではないが、天然ダイヤモンドでもない」と説明している。

つまり専門家にとって正確な「合成」という言葉が、一般消費者にとって同じ意味で理解されるとは限らない。これがShah会長の主張の本質だ。

各国で異なる「最も分かりやすい呼称」

CIBJO自身も、世界の市場で呼称がすでに統一されていない現実を認めている。

2026年のCIBJO Congressでは、フランスやロシアなどでは「synthetic」の使用が認められている一方、米国やインドでは「lab-grown」や「laboratory-grown」が使用されていると説明された。CIBJOのLaboratory-Grown Diamond Committeeからは「laboratory-grown」を選択肢として維持するよう求める意見も出されたが、最終的にCIBJO理事会は国際コミュニケーションにおいて「synthetic」を推奨する判断を下した。

この市場差を考えれば、用語をめぐる対立を単純に「synthetic派対lab-grown派」と整理するだけでは不十分であることがわかる。

英語圏では二つの単語が持つニュアンスについて議論できる。しかし、中国語、日本語、フランス語、アラビア語などに翻訳された場合、それぞれの単語が消費者に与える印象は変化する。さらに、同じ単語であっても市場形成の歴史によって意味は異なる。

日本では「ラボグロウンダイヤモンド」という名称が近年、小売ブランドや消費者向けメディアを中心に急速に浸透してきた一方、従来の宝石業界では「合成ダイヤモンド」が標準的に使われてきた。JJAが2019年に実施した業界調査では、回答企業の83.2%が「合成ダイヤモンド」という呼称を使用していたのに対し、「ラボグロウンダイヤモンド」は21.5%であった。これは2019年時点の調査であり、現在の市場状況をそのまま示してはいないが、日本に二つの異なる言語文化が存在してきたことを示すデータとして参考にできる。

一方、現在ではJJA自身の消費者向けウェブサイトでも「ラボグロウンダイヤモンド」という言葉そのものを取り上げて説明している。これは、市場でこの名称がある程度一般化されていることの表れともいえる。

消費者保護に必要なのは「一語」ではなく「説明」

呼称論争が長期化している背景には、「一つの単語ですべてを説明しようとしている」という問題もある。

天然か人工生産かという最も重要な情報を消費者に伝えるのであれば、「synthetic」「laboratory-grown」「合成」「ラボグロウン」のどれを選択するか以上に、「天然ではなく、人為的な環境で製造されたダイヤモンドである」という事実が明確に伝わることの方が重要だろう。

Shah会長が提唱する「one-line declaration」の考え方は、この問題への現実的なアプローチと見ることができる。単語そのものの優劣を争うのではなく、商品の起源を消費者が誤解しない文章として表示するという考え方だ。

これはジュエリー販売の現場でも重要な意味を持つ。例えば「ラボグロウンダイヤモンド」とだけ表示して、その意味を説明しなければ、人工生産物であることを知らない消費者が購入する可能性がある。一方、「合成ダイヤモンド」とだけ表示して、天然ダイヤモンドと異なる物質であるかのような誤解を生じさせるのであれば、それもまた十分な情報提供とは言い難い。

必要なのは、天然との違いを過度に小さく見せることでも、逆に必要以上に大きく見せることでもなく、「何であるか」と「何ではないか」を正確に伝えることだ。

天然ダイヤモンド側にも「Natural」の明示を求める考え

Shah会長の発言でもう一つ注目すべきなのが、天然ダイヤモンド側の表示に関する提案だ。

同会長は、採掘された天然ダイヤモンドであることを保証する「Natural Diamond Mark」のような商標・表示制度を導入することも提案した。それによって消費者の信頼を高め、疑念や混乱を減らせるとの考えだ。

これは呼称問題の議論を一段進める考え方に見える。これまで多くのルールでは、何も接頭語を付けず単に「diamond」と表記すれば天然ダイヤモンドを意味し、人工生産物の側に「synthetic」や「laboratory-grown」などの修飾語を付けるという構造が基本となってきた。

しかし市場に二つの商品カテゴリーが並立するのであれば、人工生産物だけに説明責任を負わせるのではなく、天然ダイヤモンド側も「natural」「mined」などによって積極的に起源を表示するという発想も成り立つ。

現在、米国ではラボラトリーグロウンダイヤモンドがすでに無視できない市場規模となっている。2026年のCIBJO Congressでは、米国で販売される婚約指輪の半数以上が、数量ベースでラボラトリーグロウンダイヤモンドを使用しているとの報告も行われた。市場がこの規模まで拡大すれば、「ダイヤモンド=天然であり、人工生産物だけを例外として表示する」という従来の制度設計そのものを再検討する議論が生じるのは自然とも言える。

呼称問題の背後にある天然とLGDの市場競争

もっとも、今回の呼称問題を純粋な言語学や消費者保護だけの議論として見ることはできない。

天然ダイヤモンド市場とラボラトリーグロウンダイヤモンド市場の競争が激しくなる中、名称そのものが商品の価値認識に影響を与えるためだ。

「laboratory-grown」という言葉は、技術革新や先進性、管理された生産環境といった印象を与えやすい。一方、「synthetic」は科学的には正確でも、市場によっては人工物や代替品という印象を強くする可能性がある。

逆に天然ダイヤモンド業界から見れば、「laboratory-grown diamond」という名称が天然ダイヤモンドとの同質性を必要以上に強調し、両者の起源や希少性の違いを曖昧にしているとの批判がある。

CIBJO Diamond Commissionの2026年報告にもこうした認識が明確に表れており、「laboratory-grown」という用語を婉曲的な表現と見る意見や、現代の生産が実験室というより工業的製造工程で行われていることを理由に、その妥当性を疑問視する主張が記載されている。

つまり呼称は単なる名称に留まらない。「消費者がその商品を何だと認識するか」に直結するマーケティング資産であり、そのため双方の業界にとって経済的利害を伴う問題だ。

「誰のための呼称か」

これまで呼称を巡る議論では、「国際的にどの表現が正しいのか」が中心になっていた。しかし本来の目的を消費者保護とするのであれば、問うべきなのは「業界団体がどの言葉を選ぶか」だけではない。日本の一般消費者がその言葉を見たとき、商品の性質を正確に理解できるのか。「ラボグロウン」という言葉から人工生産であることが十分伝わるのか。「合成」という言葉から、キュービックジルコニアなどの類似石とは異なることが理解されるのか。そして天然ダイヤモンドについても、その起源や価値の違いを十分に説明できているのか。これらを検証する必要がある。

ラボラトリーグロウンダイヤモンドの市場拡大によって、天然ダイヤモンドと人工生産ダイヤモンドの区別を明確にする必要性は以前より高まっている。しかし透明性とは、特定の言葉を採用することそのものではない。消費者が何を購入しているのかを理解し、その違いを認識したうえで自由に選択できる環境を作ることだ。

CIBJOが提示した「国際的に統一された科学的用語」と、WFDB会長が提示した「各国の消費者が理解できる現地語」今後の呼称問題は、どちらか一方を選ぶ議論ではなく、この二つをどのように両立させるかという段階に入ったと見るべきだろう。

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