ラボグロウンダイヤモンドの経済学 [RAPAPORT]

ラボグロウンダイヤモンドの経済学、と題するラボグロウンダイヤモンド市場に関する最新の考察がRAPAPORTに掲載された。

ラボグロウンダイヤモンドの価格は、一定期間の急激な下落の後で安定傾向に入りつつある。

表面的に見ると、ラボグロウンダイヤモンドの価格は近年急激に下落している。国債市場リサーチ会社、ベイン&カンパニーによるダイヤモンドセクターの最新の年次報告書によると、2021年のポリッシュラボグロウンダイヤモンドの平均小売価格は同等品質の天然ダイヤモンドの約30%であり、2020年の35%の水準から下がっている。同社の推定によると、卸売レベルでは2020年は天然ダイヤモンドの20%の水準であったが、2021年には14%の水準まで下がっているという。

ジュエラー、Zulu Ghevriyaは、現在のラボグロウンダイヤモンドの価格が2年前よりも低いことを認める。ニューヨークを拠点とするラボグロウンダイヤモンドジュエリー専門ブランド、スマイリング・ロックス(Smiling Rocks)の共同創設者は、Rapaportプライスリストの約85%〜90%マイナスでラボグロウンダイヤモンドを仕入れていると述べている。

しかし、ラボグロウンダイヤモンドのカテゴリーには価値が急落したものもあれば、安定、または上昇しているものも存在する。また下降傾向にある商品は価格が横ばいになりつつあり、小売価格は安定している。

「ラボグロウンダイヤモンド業界は独自のペースで業績を上げています。業界が成熟するにつれて、価格は小サイズから大粒まであらゆるカテゴリーで安定するでしょう。」とスマイリング・ロックスのゲワリアは言う。

一般的にマーケットはハイエンドとローエンドに分かれており、この2つの異なるマーケットは価格設定に影響を与える異なる販売構造を持っている。

ハイエンド

高品質のラボグロウンダイヤモンドは、世界中の特に技術的に進んでいる生産者によって生産されている。コンサルタント会社のMVIマーケティングのCEOであり、WD Lab Grown Diamondsの取締役でもあるマーティ・ハーウィッツは、この高品質セクターの価格は比較的安定しており、生産量は人々が期待する速度で増加していないと述べる。

コロナ禍はラボグロウンダイヤモンドの原石を成長させるために必要な材料の不足を引き起こしたため、それが供給不足の原因の一部であるとハーウィッツは説明する。しかし主な要因は、この高品質セクターの分野で(ラボグロウンダイヤモンドを生産させる)十分な知識と経験を持つ科学者の不足だったと彼は言う。「これらの(高品質な)ものを一貫して成長させることは実際に本当に難しいです。これは資本競争ではありません。経験豊富な科学者をチームに獲得できるかどうかの競争なのです。」と彼は述べる。

小売セクターも動きを活発にしている。小売チェーンは消費者の需要に対応すべく一貫した供給を求めており、ジュエリーメーカーは小売業者とリピート供給契約を締結したいと考えている。これを達成するためにこれらの企業は、よりハイレベルなダイヤモンド生産者との長期契約に署名し、より高品質の商品を手に入れるためにプレミアム価格を支払っている、とハーウィッツは言う。これにより、パイプラインの下流では価格が押し上げられる。

ハーウィッツによると、現在の生産能力の成長では消費者および小売業者の需要にスケーラブルな量で対応できなくなり、特に大粒で高品質の商品は2022年末に向けてそうなるだろうという。

価格はどこまで下がるか?

一方、インドのスポットマーケットでは、定期販売契約ではなくオンデマンド販売が行われているため、サプライヤーは大量のローエンドのCVD(ラボグロウンダイヤモンド)在庫をラパポートプライスリストから最大97%マイナスで放出しているとトレーダーは述べている。

インドマーケットにはキャッシュフローが必要だとハーウィッツ氏は説明する。 CVD生産者の多くは、この分野に資金を注ぎ込んだ投資家を満足させたいと考えている。ただし、これらのローエンド商品を購入する流通の中間に位置するプレーヤー(その多くは、数十年の天然ダイヤモンドビジネス経験を持つ歴史あるインドのディーラー)は、収益を維持するために積極的に低価格で商品を提供している。

「これらの卸売業者は、毎日その大幅な割引価格の商品リストを世界中に提供しています。彼らは現在、自分達と生産者両方のためにキャッシュフローを良くしようとしています。しかし遅かれ早かれそれら生産者の投資家は価格設定に不満を抱くようになるでしょう。そして彼らの中には十分な投資のリターンを得ていないと不満に思っている人がいることも知っています。」とハーウィッツは言う。

しかし、生産がコストレベルに近づくにつれて、価格は下落している。業者がさらに料金を引き下げるならば、損失を出して在庫を売ることになるだろう、と匿名を条件に一人のCVD生産者が述べた。「この価格減少傾向は2016年以降続いています。しかし、この減少のレベルは安定し始めています。」

メレサイズダイヤモンド

もちろん、ラボグロウンダイヤモンドの価格をRapaportプライスリスト、つまり天然ダイヤモンド市場と比較すると誤解を招く可能性がある。需給に影響を与える要因はカテゴリーごとに異なっており、カラットサイズが大きくなるにつれて天然ダイヤモンドは希少になるが、ラボグロウンダイヤモンドには特異性がある。

例えば、ラボグロウンダイヤモンドのメレの価格は、小売業者がサイドストーンとして多く使用する必要があるため、過去4か月で価格は急上昇した。ラボグロウンダイヤモンドを購入する人は、ジュエリーに天然ダイヤモンドを使用したがらないことが多い、とニューヨークを拠点とするラボグロウンダイヤモンドコンサルタント企業、Diamond DNA Solutionsのベン・ハクマンは言う。これら消費者は以前は通常のジュエリーの購入者層とは異なるため、この傾向は(天然ダイヤモンド)業界にとって必ずしも悪いこととは言えない、と彼は強調する。

「新しい消費者がいて、彼らがラボグロウンダイヤモンドのジュエリーを購入しようとするとき、彼らはその全てをラボグロウンダイヤモンドにしたいと考えています。」

ラボグロウンダイヤモンドのセミマウント(完成したエンゲージメントリングからセンターストーンを差し引いたもの)の需要は、「ラボグロウンダイヤモンドのコンセプト全体を本当に望んでいる消費者がいるため、天井を突破している」と、ラボグロウンダイヤモンドブランドのファイア・ダイヤモンドのマネージングディレクターでもあるハクマンは言う。

この需要傾向に加えて、適切なラボグロウンダイヤモンド原石の不足問題がある。ほとんどのメレサイズのラボグロウンダイヤモンド高圧高温法(HPHT)だ。これは、CVDは特性上、商業ベースで小さなサイズのダイヤモンドを生産することが困難なためだ。

しかし、そこにも問題がある。ほとんどのHPHTは中国で生産されている。匿名の生産者によると、ロシアとウクライナの戦争が始まって以来、高級ブランドは地政学的な問題に敏感になり、交渉不可能な調達要件を導入している。

「HPHTの主要なバイヤーは、中国で生産された商品の購入が不利になる可能性があることを懸念しています。」と彼は言いう。「多くの高級ブランドは、中国やロシアで生産されたダイヤモンドを購入したくないと考えているのです。」

この状況は、サプライチェーンが価格設定にどのように影響するかを浮き彫りにする。

「一部のCVD生産者はメレサイズの生産を行うことができます。我々も少量持っていますが、天然ダイヤモンドよりも高価なラボグロウンダイヤモンドのメレを販売することになるかもしれません。」と生産者は述べる。

価値判断

1ctのカテゴリーでは逆の傾向が見られる。生産が容易になり、供給がより容易になるだろう。同時に、消費者は同等の天然ダイヤモンドよりもはるかに安い価格でさらに大きなダイヤモンドを手に入れることができると認識しているため、需要は停滞している、とフロリダを拠点とするCVD生産者グリーン・ロックスのCEOレオン・ペレスは説明する。

「消費者がラボグロウンダイヤモンドの購入に進んだ場合、彼らは大きな価値を得たと感じることを願っています。それは、彼らが常により大きなダイヤモンドを手に入れることを意味しています。」と彼は見解を述べる。その結果、1ctの価格は2ctよりも早いペースで下落しているという。

他の要因も関連しているという。MVIのハーウィッツは、透明性が高くサスティナブルな生産のダイヤモンドはプレミアム価格になっていると指摘する。加えて、トリートメントされていないダイヤモンドも同様だという。業界ではこれを「As-grown(アズグロウン)」と呼び、これらを一貫して安定生産することは難しいと彼は言う。

また別の関連する問題は、GIAのグレーディングレポートの追加価格だ。これは、トリートメントが行われたかどうかに関する情報を記載しているためだとペレスは述べる。

誰が利益を得るか?

価格が下落しているラボグロウンダイヤモンドのカテゴリーでさえ、消費者は値引きを受けていない。小売業者は同じ価格で販売を続けており、利益率を拡大することがでるとハーウィッツは言う。

Smiling Rocksのゲワリアによると、ラボグロウンダイヤモンドの小売マージンは、天然ダイヤモンドの35%から50%と比較して、約70%になっているという。

もちろん、すべての小売業者が同じというわけではない。大手はより高い価格を設定しているが、独立系企業は一般的に製品をより安くし、より控えめなマージンを設定しているとハーウィッツは述べている。

シグネット・ジュエラーやオンライン小売業者のような大手企業がラボグロウンダイヤモンドを販売しており、高価な販売を行っているとハーウィッツは言う。「小売価格は変更されていません。変わったのは利益率です。彼らは商品をより安く手に入れることができるので、利益は成長しています。」

現在のファクター

なぜ消費者は天然ダイヤモンドよりもラボグロウンダイヤモンドを購入するのか?サスティナブルかどうかは議論の余地があるが、サスティナブルだと考えられるからだと言うこともあるだろう。天然ダイヤモンド業界はこれに異議を唱えるだろうが、ダイヤモンドがより「追跡可能」であることが原因である場合もある。しかしながら、主な推進力は経済学だ。つまり、より大きな石をより少ないお金で購入できると言う事だ。

最近の2つの事例がこれを強調している。

1つ目は、ヘルツバーグダイアモンドのCEOであるベリルラフが2月のドバイダイヤモンドカンファレンスで発表したことだ。米国の小売業者は、2021年に天然ダイヤモンドの50倍の量の2ctsのラボグロウンダイヤモンドを販売した、と彼女は聴衆に向かって述べた。

MVIマーケティングのハーウィッツは別の例を述べる。エンゲージメントリング生産を行う企業は、平均して以前よりも大きなアイテムを生産している。

「彼らは、従来の1ct用のヘッドから1.25ct用のヘッドへの劇的な需要変化を見てきました。」と彼は言う。「彼らは、これがラボグロウンダイヤモンドによって推進されていると信じており、これは間違いないと思います。」と述べた。

これは、消費者の需要に潜在的な懸念があることを示している。技術が向上し、ラボグロウンダイヤモンドの生産が増加するにつれて、時間の経過とともにその価値が相対的に下がる可能性があるとしても、消費者は、今、より大きなダイヤモンド製品に飛びつくことをいとわない。

価値の下落はそれほど新しいことではない。そのため、ブリリアント・アースやシグネット・ジュエラーなどの多くの小売ブランドではラボグロウンダイヤモンドを下取り保証から明示的に除外している。しかし、それはジュエリーを購入する一般の人々にとってはそれほど問題ではないかもしれない。

「消費者がラボグロウンダイヤモンドを選ぶとき、彼らは必ずしも将来の価値について考えているわけではありません。」とグリーンロックスのレオンペレスは言う。「特にインフレが急上昇しているので、彼らは今より少ない支出を望んでいます。」

購入要因として、彼は「価値の保持は検討材料から外れている」と信じている。

小売業者は消費者に対して、ラボグロウンダイヤモンドがその価値を保持しない可能性があることを顧客に通知している。とDiamond DNA Solutionsのベン・ハクマンは言う。「知っていますか?消費者はそれ(将来の価格)を気にしません。彼らは今のことを考えているのです。」と付け加えた。

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