アフターコロナ 小売業のデジタルの夜明け

コロナが始まって以来小売業は業態をシフトしており、デジタルへの動きはより顕著になっている。市場アナリスト企業であるベイン&カンパニーの最新のグローバルダイヤモンド業界2021–22レポートによると、現在(米国の)ジュエリー小売業者の約90%がオンラインプラットフォームを利用しているという。「パンデミックは、米国の独立系小売業者にとってさえ、急速にECを加速させるきっかけになりました。」と彼らは述べる。

この動きは、小売業者が消費者の動向に対応した直接の結果だ。

「消費者は、パンデミック以前よりも多くのオンライン購入を行っています。」と、小売およびテクノロジーを専門とするグローバルアドバイザリーおよびリサーチ会社、コアサイトリサーチのシニアアナリストであるジョン・ハーモンは述べる。「(パンデミックで)家に避難している間、彼らは買い物の場所として小売店から切り離され、新しいオンラインショッピングチャネルを発見しました。現在、消費者はオンラインショッピングに対してよりオープンになっていますが、彼らの注意はより様々なところに向いています。」消費者のほぼ半数は、一般的に公共の場所を訪れることに対して抵抗があると彼は付け加え、4月のコアサイト消費者調査を引用した。

以前からeコマースに投資していた店舗でさえも変化が見られるという。

モンタナ州ボーズマンのアララジュエリーのオーナー、バブス・ノエルは「我々はすでにオンラインを行っており、遠方の人々のためにフェイスタイムを行っていました。しかし、パンデミックの前後で変化したのは、そのビジネスの量です。」と語る。

彼女はこれを、贅沢な旅行などではなく、宝石に可処分所得を使い続けている顧客に起因すると考えている。「おそらく私が見た最大の変化は、これまでオンラインでジュエリーを購入したことがない消費者が突然それをやり始めたことです。」

コロナ禍はより多くの消費者がデジタルに慣れるのを促進したと、アルバレス&マーサス コンサルティングリテールグループのマネージングディレクター、マイク・シモンシックも同意する。

「消費者は行動をよりオンラインにシフトしており、仮想環境が整ってきています。」と彼は言う。 「デジタルで変わった点は、仮想体験が効率的かつ急速に拡大しているということです。最大の変化は、消費者がオンライン購入の意欲を高めているということです。」

それでもテクノロジーを採用している店舗は、デジタルとオフラインのバランスを模索している。

「私たちの多くは、リビングルームで商品を購入する事に慣れました。」と、テキサス州のダイヤモンドルームのオーナーであるマット・オデスキーは言う。彼はオースティンとダラスにプライベートショールームを持っているが、パンデミックが始まって以来、州外のクライアントが増えているという。「私たちはクライアントに自分の手の写真を撮ってもらい、それにレンダリング(してジュエリーを仮想的に着用)することができます。しかし、(デジタルとオフラインの)ハッピー(だと感じる)バランスが必要だと思います。私たちはその相互作用を失いたくありません。バーチャルアポイントメントではなく、人と直接会いたいのです。」

シームレスな体験

コアサイトのハーモンは、eコマースと実店舗を別々の存在として考えるのではなく、2つを同じショッピング行動の一部と見なすことが重要だと述べている。

「ジュエリー業界はテクノロジーを活用して、店舗での体験と同じものを(オンラインで)消費者に提供しています。小売業者は、進歩したARテクノロジーによって商品を試着したり、製品をカスタマイズしてコンサルタントと話したりする機能を消費者に提供しています。一部は仮想チャットを通じて、またライブチャットを通じて、消費者が実店舗にいるかのうような体験を提供します。」と彼は説明する。

現在の消費者は購入に際して多くの情報を得ており自信を持っているため、これらの(デジタルの進歩が)オンラインとオフラインの両方でより高い購入率につながるとハーモンは信じている。「(これは)ジュエリーやラグジュアリーなどの高級品セグメントにとって特に重要です。」と彼は言う。「例えば、シグネット・ジュエラーズは同社の小売店ブランドのアーネスト・ジョーンズで、店内ビジネスの20%がオンライン予約から来ていると報告しました。そして、それらオンライン予約顧客の70%以上が購入する金額は、通常の顧客の平均4倍になります。」と説明した。

アララジュエリーのノエルは、顧客がオンラインでリサーチしたり、また小売店の営業時間後に情報を必要とするという考え方を取り入れていると説明する。「多くの人は店に行かずにオンラインで少し試してみることを好みます。午後6時以降に彼らがテキストメッセージを送信すると、その日はもう留守だということを知らせる自動メッセージが届きます。そして、翌朝彼らは私たちからの返事を受け取ります。」

彼女は、特に若い顧客との最初のコミュニケーションの多くをデジタルで行っている。「なぜ人々が深夜にジュエリーを買いたがるのかはわかりませんが、コロナ以降、私たちのウェブサイトは爆発しました。」と彼女は言う。そのため、企業がオンラインイメージについて考えることは非常に重要だと彼女は考えている。「余計なものはあまり重要ではないと思います。信頼感を提供する事になるので、機能性の高いWebサイトを持つことが重要だと思います。」

テクノロジーはどのように役立つか

ハーモンは、オンラインショッピングは消費者が行っているテクノロジー体験のほんの一歩だと言う。

「チャットボットとデジタルショッピングアシスタントは、小売業者の労働力不足に対処できます。そして、店舗が閉まっているときでもそれらは24時間年中無休で働くことができます。」と彼は説明する。

テクノロジーはまた、営業担当者の仕事をより簡単かつ効果的にすることができる、と彼は付け加える。「タブレットなどの携帯デバイスは、顧客の購入履歴を販売員が容易に閲覧できるようにし、また人工知能や機械学習はデータ間の関係検索と予測を可能にし、インテリジェントな推奨製品リスト作成を支援できます。」

ノエルは顧客関係管理(CRM)ソフトウェアを使用して、特定のコミュニケーションを簡素化および自動化している。 「たとえば顧客に3年ごとに評価額の見直しを通知します。」と彼女は言う。「これらのメールを3年ごとに送信することで、保険会社やそのクライアントのお気に入りになることができます。メールが送信されていることを我々が認知していなくてもメールが送信され、一定の収入を得ることができます。」

ノエルはダウンロード可能なエンゲージメントリング購入ガイドも提供している。顧客が(Webサイトに)サインアップすると、無料のリングサイザーとルーペを郵送し、電話でクライアントに使用方法を教える。「おそらく40程の自動化されたキャンペーンが実装されており、またそれらを絶えず追加しています」と彼女は言う。「(それによって)驚くべきほどの多くのビジネスが生み出されています。」

暗号通貨とNFT

これはテクノロジーの氷山の一角に過ぎないかもしれない、とオデスキーは言う。「私たちは、デジタルに伴う変化にさえ着手していません。そして、私たちの業界は常に進化に向かって足掻き騒ぎ立てています。そのため多くの宝石商がラボグロウンダイヤモンドに課題を抱えていました。そして、さらに大きなブームであるNFT(非ファンジブルトークン)と暗号通貨に関してはまだ到達していません。」

ラグジュアリーメーカーはすでにNFTを自社の製品ラインに取り入れ始めているとシモンシックは言う。 NFTはデジタル形式でのみ提供されるユニークなデジタルコレクターアイテムであり、豪華なハンドバッグやカスタムリングと同様だ。「今、グッチでバッグを購入するとNFT(認証コードを持つデジタル資産)が提供されます。したがって、そのグッチバッグを販売したい場合は、バッグに関連づけられた認証コードが必要になります。」

シモンシックは、より多くの小売業者がこのテクノロジーを採用することを期待していると述べる。 「透明性がより当たり前になるにつれて、それを標準として提供しない宝石商は苦しむ事になるでしょう。独立系宝石商は競争するのが難しくなると思います。消費者はこの種の情報を要求するようになるでしょう。」

NFTを製品に組み込むことを計画しているオデスキーは、NFTには多くの可能性があると言う。「NFTには非常に多くの価値と将来の可能性があります。商品のNFTを購入でき、それは安全な場所に保管されます。」と彼は言う。

レース開始

暗号通貨も波を起こし始めているが、それが果たす役割がどれほど大きいかを知るには時期尚早だとシモンシックは言う。

「暗号通貨は非常に初期の段階にあります。」と彼は述べる。「環境に配慮し、またテクノロジーに精通している人々は、将来的にラボグロウンダイヤモンドの需要増加につながるでしょう。そうすれば、NFTと暗号通貨を使用している顧客の有効なサンプル層を見ることができるでしょう。」

オデスキーは、好奇心はあるが用心深いと述べる。

「暗号通貨は、盗難クレジットカードを使用されるリスクを排除します。」と彼は言う。「それは私たちの取引方法を変えるでしょう。それは何か新しいことを取り入れるというだけのことです。それは私たちが最終的に適応すべきもう1つのことです。これはほとんどレースであり、問題はいつ乗船するかということです。」

ノエルはまだジャンプする準備ができていない。

「私が使用してきたさまざまなテクノロジーの種類ごとに、学習曲線があります。」と彼女は言う。 「すべてがバグだらけです。ですから暗号通貨のようなもの、実装にかかるのに想定以上の時間がかかるものに固執する必要はないと思っています。常にリスクとリターン、そしてどれだけの時間があるかをみる必要があります。」

ハイテクブームのさらに驚くべき側面の1つは、それがもたらす新しい顧客だと彼女は付け加える。 「コロナは、これまでオンラインショッピングをしたことがない高齢者をオンラインショッピングに誘導しました。これは以前からすでに起こっていましたが、コロナ禍はそれを加速させました。」

パンデミックの前は、店舗も顧客を(店に)呼び寄せる傾向が強かったと彼女は言うが、その後、その動きは変化した。「ジュエリー業界の人々は、顧客側が快適に感じる場所で消費者に提案する準備をしていませんでした。現在では、宝石商側が顧客のいる場所に行くことがはるかに重要になっています。」

ボタンを押す場所とタイミング

小売業者とアナリストは、テクノロジーは0か100かである必要はないと言う。「テクノロジーは、利便性と情報を提供し、販売プロセスの摩擦を取り除くのに最適です。」とコアサイトリサーチのハーモンは述べる。「しかし、人間(の販売員)によるサービスと購買経験は、eコマースに対して実店舗の重要な利点です。」

多くのテクノロジーはコミュニケーションを促進することに関連しているとアララジュエリーのノエルは言う。「あなたは顧客とのコミュニケーションで常に便利になりたいと思っているでしょう。顧客が存在する場所で彼らにコンタクトできるようにしたいと思っています。消費者があなたのウェブサイトで信頼感を持つようにWebを作ってください。顧客が必ずしもオンラインで購入する必要はありません。私たちの地元では多くの人がオンラインに訪れ(ショップと商品を閲覧し)、最終的には実際に商品を手に取って購入するために来店しています。」

彼女はeコマースサイトを持つことを勧めている。「私は人々を驚かせることを知っています。しかしそのようなものが何もない場合は、顧客が商品をクリックして「この商品に興味があります。私に連絡して下さい。」というメールなどを自動的に送信できるようにします。彼らがそこでその商品を購入できないとしても、彼らはあなたとコミュニケーションできるようになります。」

ダイヤモンドルームのオデスキーは、助けなしに自分で全てをやろうとしないことも重要だと言う。「実際、デジタルマーケティングのバックグラウンドを持っているフルタイム従業員がいない限り、社内でそれを行うことは推奨できません。私たちは誰も、テクノロジーの面で進化し、一方で宝石商としての仕事をすることはできません。1週間の時間には限りがあります。するべきことを把握しておりデジタルに100%専念している人が社内にいない場合、私はアウトソーシングします。」

アルバレス&マーサスのシモンシックは受け入れるバランスはそれほど重要ではないかもしれないと最終的に言う。「テクノロジーが多すぎるとは思いません。小売業者は、成長チャネルとしてボタンを押し続け、デジタルを押し続ける必要があります。」

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