2025年を振り返る – 今年最も注目されたニュースTOP10

価値の前提が揺らいだ一年を振り返る

2025年のジュエリー・時計業界は、「市況が悪かった」といった単純な景気循環の話では片付けられない一年だった。素材価格、鑑定基準、ブランド戦略、消費者心理、それらすべてにおいて、これまで当たり前とされてきた前提条件が揺さぶられた一年だったと言える。とりわけ顕著だったのは、「なぜこの価格なのか」「なぜこの素材なのか」「なぜこのブランドなのか」という問いに対し、従来の説明が通用しなくなり始めた点だっただろう。2025年に最も注目された10のニュースを振り返り、今年がどんな一年だったのかを振り返ると同時に、新しい年の業界の革新と発展への願いとしたい。

2025年業界ニュースTOP10

集計方法
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ブランド価値とマーケティング、ブルガリ炎上に見るジュエリーブランドの課題

2025年5月22日

ブルガリのインフルエンサー起用を巡る炎上は、SNS運用の巧拙ではなく、ラグジュアリーブランドが持つ世界観と発信者の人格・文脈が一致しているかという根本的な問題を突きつけた。SNSはもはや「使うか、使わないか」の議論ではない。問題は「誰の言葉として、どのレイヤーの顧客に届くのか」だ。2025年を通じて明らかになったのは、露出量の最大化=ブランド価値の最大化ではない、という事実だ。安易な拡散は一瞬で「大衆化」という烙印を押されかねない。

ダイヤモンド市場の苦境とゴールドの躍進:明暗分かれる中国の宝飾業界

2025年2月18日

中国市場では2025年を通じて、ダイヤモンドジュエリーの苦戦と、ゴールドジュエリーの堅調さが鮮明となった。これは単なる流行の問題ではなく、消費者の価値基準の変化を反映している。ダイヤモンドが象徴してきた「情緒的価値」よりも、ゴールドが持つ「価格の可視性」「換金性」「資産性」が評価される局面が増えたと分析できる。この傾向は中国に限らず、アジア市場全体に共通する兆候であり、ダイヤモンド業界にとっては販売論理の再設計を迫る重要なサインであった。

ラボグロウンゴールドのインパクト、金の神話が揺らぐ日

2025年5月23日

科学者による金の人工合成に関する報道は、実用化の可否以上に、「金は人工的に作れない」という神話が崩れたこと自体に大きな意味があった。これはジュエリー業界にとって、素材価値の根拠が「絶対的希少性」から「社会的合意」へ移行しつつあることを示唆している。ラボグロウンダイヤモンドが問いかけてきた問題が、ついに貴金属の領域にまで及び始めた年であった。

ロレックス、金価格高騰を受け値上げ

2025年1月8日

ロレックスの価格改定は、高級時計がもはや「工業製品」ではなく、素材市況の影響を強く受ける存在であることを明確にした。金価格の上昇は避けられない要因である一方、消費者側は「なぜこれほど上がったのか」を冷静に見ている。2025年は、価格改定そのものよりも、価格に対する説明責任が問われ始めた一年であった。

現代の錬金術、核融合炉で「金」生産へ – 年間数千kg規模で採算も

2025年8月19日

米国スタートアップが、核融合炉の副産物として水銀から金を商業規模で生産可能とする技術を発表した。
理論上は1GW級の核融合炉1基で年間数千kgの金生産が可能とされている。このニュースの本質は実現時期ではなく「金は絶対的に希少である」という前提が揺らいだことだろう。宝飾業界にとって金は、単なる素材ではなく、価値の基盤そのものであった。その前提が科学技術によって書き換えられる可能性が示されたことは、長期的に価格形成やブランド価値に影響を与えかねない重大な示唆となった。

GIA、ラボグロウンダイヤの鑑定基準を刷新―天然と区別する新用語導入を発表

2025年6月5日

GIAはラボグロウンダイヤモンドに対し、従来とは異なる新たなグレード表記体系を導入した。これは、ラボグロウンダイヤ市場が徐々に整理・成熟期へ移行しつつあることを示している。GIAは天然と同じ物差しで語るのではなく、異なる価値軸を明確にする方向へ舵を切った。一方でこれが業界や消費者に受け入れられるかは結果を見る必要があるだろう。

AGTAはラボグロウン宝石の展示会出展を禁止すると発表

2024年4月12日

AGTAの決定は、ラボグロウン宝石を排除するというより、市場と価値観を明確に分離する選択と捉えるべきだろう。展示会という「共通の場」が分断され始めたことで、B2B取引の構造や情報流通の在り方そのものが変化する可能性が高まった。

中国ジュエリーブランド『DR』は、どうして「世界一のエンゲージリングブランド」になれたのか

2023年9月28日

本記事は一昨年の記事だが昨年のTOP10に引き続き今年のTOP8に食い込んだ。天然ダイヤモンドが低迷している現在の中国市場においてDRも例に漏れず近年は苦戦をしているが、このDRの事例が今年も多くのPVを獲得しているということは、これが日本市場においても示唆が多い事例であること示している。DRの成功は、デザインや価格ではなく、「一生に一度しか買えない」という思想を売った点だ。商品ではなくルールを設計し、そのルールに共感する顧客だけを集めた戦略は、依然成熟市場におけるブランド構築の好例と言える。

世界一高価なiPhoneケース – グラフコラボ45万ドル

2023年7月11日

先の記事に続きこれも一昨年の記事だ。宝飾技術を用いた超高額iPhoneケースは、ジュエリーが身体装飾という枠を超え、ライフスタイル全体へ拡張可能であることを示した。2025年はジュエリーを「どこに着けるか」より「なぜそれがジュエリーなのか」が問われ始めた一年であり、その潮流の中で改めてこのiPhoneケースに注目が集まったと考えられる。

デビアスの危機・ダイヤモンド市場への警鐘

2025年3月10日

2025年、ダイヤモンド業界において最も象徴的だった出来事の一つが、デビアスの深刻な苦境だ。かつて世界のダイヤモンド供給と価格形成を事実上支配し、「ダイヤモンドは永遠」という価値観を市場に定着させてきた同社が、需要低迷と在庫膨張という二重の圧力に直面した。また、親会社であるアングロ・アメリカンのダイヤモンド事業の撤退に関するニュースも今年は注目を集めた。ダイヤモンド業界は、情緒性・希少性・永遠性といった従来の価値を、現代の消費者が納得できる形で再構築できるかどうか、その分岐点に立っている。

2025年は「何を売っている業界なのか」が真正面から問われた一年だったと言える。それは素材なのか、技術なのか、物語なのか、または価値観そのものなのか。価格が上がった理由、売れなくなった理由、選ばれなくなった理由、それらを外部要因だけで説明できる時代は終わりつつある。

2026年に向けてジュエリー業界に求められるのは「価格を正当化する言葉」ではなく、消費者が納得できる構造そのものを設計する力だろう。2025年の事例は、価値とは、守るものではなく、問い直し続けるものだということを教えてくれている。

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