ダイヤモンドのメモ取引とは?その利点とリスクは何か。[RAPAPORT]

メモ(Memo)、メモディール(Memo Deal)と呼ばれる取引形態がジュエリー業界、ダイヤモンド業界には存在する。いわゆる、委託販売取引の事だ。特に米国の小売業者などを中心に、今でもメモ取引のリクエストは強い。

このメモ取引の利点及びリスクについて、2022年7月号のRAPAPORT誌に掲載(ロバート・ホーバーマン著)されていたので、以下紹介したい。

商品の委託販売を受けることで、小売業者は自社の商品選択肢を広げ、資本を節約し、銀行与信の複雑さを回避することができる。

取引においてユーザー名やパスワード、顔認証などの様々なテクノロジーによるセキュリティが一般的になっている現代のライフスタイルにおいては、ジュエリー業界の歴史と同じくらい伝統的な習慣である「メモ取引」を見るのは新鮮に映るかもしれない。しかしそれは今でもジュエリー業界では一般的で健在な商習慣だ。

このメモ取引は、卸売業者と小売業者の間で交わされる典型的で単純な合意であり、非常に簡易的な事務処理だけで実行される。この取引形態は主に取引実績による信頼をベースとしている。ジュエリービジネスのように伝統的な業界では、一般的に何世代にもわたって企業同士や家族同士が取引を続けてきたのが一般的であり、膨大な量の宝石やジュエリーが、簡単なメモ、または握手による約束だけで持ち主を変えることは決して珍しいことではない。

このメモ取引の最も基本的な形式は、サプライヤーが商品を小売業者に委託することだ。小売業者はその商品を実際に販売するまで支払いが発生しない。多くの場合このメモは長期にわたり、また無利子であることが多い。信頼関係に基づいて行われるこのメモ取引は(ダイヤモンド業界の伝統的な)握手による契約と同じように洗練された商習慣であり、拘束力を持つ。

メモ取引の利点 – 柔軟性

メモ取引は完璧な取引方法ではないが、特に小売業者側には特定の利点がある。メモ取引で商品を受け取ることで企業のキャッシュフローを改善できる。メモ取引を利用すると小売業者は、その商品が実際に販売されるまでその在庫に対する支払いをしないまま、在庫を拡大することができ、資金を節約することが可能だ。メモ商品がなければ小売業者は在庫拡大のために資金を費やす必要があり、多くの場合その仕入れた商品を適切な期間内に売り切ることができるという保証はない。そのため多くの場合、有利な条件での、資金投入の必要ない在庫拡大は小売店にとっては魅力的だ。特にメモ商品は小売店が通常在庫として仕入れをする商品よりも高い価格帯の商品であることが多いことも理由だ。

宝石や貴金属の価格は変動的であり、市場の状況や消費者の好みも同様に変化しやすいこともメモ取引のメリットを考える上で考慮できる。春には非常に人気があった商品が、同じ年の秋には人気がなくなる可能性があるので、そのような商品を自社在庫として抱えている小売業者はそのような商品を割引して売り切るか、仕入業者に返金する必要がある。しかしメモ取引の場合、市場価格が大幅に低下した場合は実情の価格に合わせて価格を再交渉できる可能性もあり、また逆に価格が上昇した場合は当初のメモ取引の価格が適用できる可能性もあり、小売業者の利益率に寄与するかもしれない。

財務的な利点

メモ取引の(小売業者側の)もう1つの利点は、小売業者の課税内容に影響を与えず、企業信用力に寄与するということだ。通常、メモ取引の商品を財務諸表で開示する必要はなく、また小売業者が受け入れることのできるメモ取引商品の数(金額)に制限はない。それらの商品は小売業者の所有物(在庫)ではないので仕入れとして計上されず、買掛にもならない。

融資または与信枠の確保に関しても、同様のメリットがある。融資審査の際には融資のリスクを確認するため、多くの買掛や在庫に対して運転資金が拘束されていることに懸念を示す場合が多い。しかし、メモ取引の商品は実際に販売が発生するまでサプライヤーが所有権を持っているため、審査申請のプロセスから除外される。

また、メモ取引により小売業者は銀行による資金調達のための利息を回避でき、業務拡張や給与の支払いなど、他の必要な事柄に現金を使用することができる。また銀行による資金調達には個人補償や信用調査などのプロセスが必要で、多くの場合それには時間がかかり、また望む結果にはならないこともある。しかし対照的に、メモ取引は無利息であり、当事者間の信用及びビジネスへの意欲に基づいて実行されるため、迅速に取引を行うことができ、個人保証も必要ない。

メモ取引のリスクとマネジメント

メモ取引を使用する場合、卸売業者や製造業者はかなりのリスクを負う。メモ取引は、短期間の合意から始まり、当事者が必要に応じて延長できることが条件になる場合があるが、委託商品を追跡し、販売後に適切な支払いを受けることは、困難で時間がかかる可能性がある。このため、正確な記録管理が非常に重要になる。

商品がメモ取引として委託される期間が長期にわたるほど、リスクは増加する。盗難、紛失、火災や自然災害などによる商品のリスクは時間の経過と共に大きくなる。また、商品を預けた小売業者が破産した場合、商品または相応の金額を取り戻すことは難しい可能性もある。このような場合、ほとんどのメモ取引には補償がないため、サプライヤーが利用できる保証は限定的で、また政府機関や銀行などの他の債権者の優先債務として、メモ取引商品がそれらの返済に使われてしまう場合もある。

また、当事者間の誤解も別の潜在的な問題になり得る。一見単純に見えるこのメモ取引の合意は取引の進行に従って複雑化することもあり、メモ取引がうまく機能しない場合、当事者間の誤解は両者の関係を悪化させたり破綻させてしまうこともある。ジュエリー業界でのメモ取引の慣習が契約条件と異なることも原因になるかもしれない。取引条件に関して書面で確認し、両当事者がそれぞれの責任範囲を認識してることを確認することで、将来的に発生する可能性のある問題を未然に防ぐことができる。

外部の会計事務所やジュエリー業界に関する知見を持つ弁護士など多くの専門家が、ビジネスの必要に応じたメモ取引の条件を作成するためのガイダンスを提供している。その他多くのビジネスでの契約と同様、当初から当事者同士が義務を明確にし相互に理解し確認することで、長期的な良い関係と成果を確実にすることができるだろう。

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