デビアス売却劇、ボツワナとアンゴラの国営戦略がジュエリー市場に秘める意味

Gaborone,Botswana.September 2019.De Beers Diamond company owns equal shares with Botswana in Debswana diamond company which operates four diamond mines in Orapa, Letlhakane, Damtshaa and Jwaneng.

2024年初頭、鉱業大手アングロ・アメリカンがその保有するデビアス社株式85%の売却を発表した際、苦境にあるダイヤモンドの巨人に買い手が現れるかは不透明であった。しかし現在、6つのコンソーシアム(企業連合)が関心を示していると報じられ、事態は新たな局面を迎えている。この動きの中心にいるのは、元デビアスCEOらではなく、アフリカのダイヤモンド生産国そのものである。

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対照的なビジョン:ボツワナの野心とアンゴラの協調

特筆すべきは、ボツワナとアンゴラという二つの主要生産国が公に買収への意欲を表明したことだ。両国は南部アフリカ開発共同体(SADC)の加盟国であり同盟関係にあるが、デビアスの将来像については全く異なる構想を打ち出しており、両国の間に新たな競争関係が生まれつつあるとの指摘もある。

現在デビアス株の15%を保有するボツワナのドゥマ・ボコ大統領は、国の「支配的株式」の取得を目指すと宣言。さらに「10月末まで」に買収を完了させ得ると述べたが、協力者としてオマーンの政府系ファンドを「潜在的協力者」として名前を挙げたのみであり、この目標は非現実的との見方が強い。長年、アフリカ南部の安定した民主国家としての地位を築いてきたボツワナだが、近年の天然ダイヤモンド市場の悪化は、同国政府の動向に不安定さをもたらしている。

一方、アンゴラ政府は「完全に資金調達済み」のオファーの一環として、デビアスの少数株主となる意向を明らかにした。共同投資家の名は明かされていないものの、その構想は野心的だ。アンゴラが目指すのは、ボツワナ、ナミビア、南アフリカなど複数のダイヤモンド生産国がパートナーシップを組み、各国が「有意義に参加」することで「デビアスの長期的な成長を守る」という共同所有体制である。これは、ボツワナが目指す「業界の実質的な支配」という単独主義的なアプローチとは一線を画す。

アンゴラは今や、ダイヤモンド業界で無視できない存在である。2024年のキンバリー・プロセス統計によれば、生産額においてボツワナを上回るトップ生産国となった。デビアスは現在アンゴラ産ダイヤモンドを取り扱っていないが、同国内で探査活動を進めており、そのポテンシャルを繰り返し高く評価してきた。アンゴラがデビアスの「クラブ」に加わるのは時間の問題と見られている。

生産国所有という新たなガバナンスへの期待

アンゴラが提唱する生産国コンソーシアムによる所有形態は、業界の専門家からも好意的に受け止められている。業界アナリストのエダン・ゴラン氏は、「ダイヤモンド生産国によるコンソーシアムは重要な機会だ。アンゴラが提案する形式は斬新であり、業界の長期的成功に必ずしも関心のない大株主がデビアスを所有するという、業界最大の懸念の一つに対処するものだ」と分析する。

この構想は、単なる資源ナショナリズムの表れではない。生産国自らが経営の中枢に関わることで、サプライチェーンの透明性やサステナビリティといった現代の市場が求める価値を、より強力に推進する原動力となり得る。アフリカ諸国が自国の資源に対する管理権を強化したいと願うのは当然の流れであり、この動きは、業界のガバナンス構造そのものを変革する可能性を秘めている。

将来的には、新たなデビアスがその「アフリカ所有」というアイデンティティをブランド戦略の中核に据えることも考えられる。知名度は高いものの、過去の負の遺産も抱える「デビアス」ブランドのライセンス事業化といった選択肢も視野に入るだろう。

新時代の安定勢力となれるか

もちろん、この構想には課題も多い。生産国コンソーシアムが具体的にどのような構造になるのか、またナミビアや南アフリカが本当に関心を示すのかは未知数だ。さらに、各国が経済の多角化を進めるべき時期に、デビアスの所有を通じてダイヤモンドへの経済的エクスポージャーを増やすことはリスクも伴う。

しかし、かつて業界の安定化要因と見なされたロシアのアルロサがウクライナ侵攻により市場の表舞台から退き、ボツワナが国内問題で揺れ、デビアス自体の将来も流動的である現在、業界は新たな羅針盤を求めている。ダイヤモンド以外にも経済基盤を持つアンゴラが、その協調的なビジョンをもって新たな「安定勢力」としての役割を果たすのではないかという期待が、業界の一部で高まっている。

今回のデビアス売却劇は、単なる一企業の所有権移転に終わらない。ダイヤモンド業界の権力構造、ブランド価値、そして未来の秩序を決定づける、歴史的な転換点となるかもしれない。

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