ラボグロウンダイヤモンドはメレサイズの不足を解消することが難しい[JCK]

ロシアウクライナ戦争が勃発して以降、西側諸国による制裁によりロシアの天然ダイヤモンド原石の流通が制限されており、これによって特にメレサイズを含む小さいサイズの供給不足を招いている。天然のメレサイズダイヤモンドに占めるロシア産の割合は50%ほどだと言われている。

*メレサイズ – サイドストーンとして装飾用や、またエタニティリング、パヴェなどに使用される小さいサイズのダイヤモンド。

そこで、この天然ダイヤモンドのメレサイズの不足をラボグロウンダイヤモンドで補い、供給不足を解消したいというアイデアが業界の一部では出ており、先日のJCKラスベガスショーのフォーラムでもそれについて言及された。

しかし、JCKで一部の識者は、ラボグロウンダイヤモンドがこの供給不足を埋めることは期待できないと述べている。

主な理由の一つは、CVD法によるラボグロウンダイヤモンドの生産者は、小さなダイヤモンドよりも大きなダイヤモンドを生産する方が経済合理性が高いと判断しているためだ。

IGIの教育担当シニアディレクター、ジョン・ポラードはこれについて次のように説明する。「CVDダイヤモンドの原石を3mmほどの厚さに成長させれば0.5ct前後の研磨済ダイヤモンドに加工できる。しかし、6mmの厚さに成長させれば、それは4cts前後の研磨済ダイヤモンドに加工できる。そしてそれは2倍の時間もかからない。つまり、研磨やグレーディングのコストなども含めるとカラットあたりのコストは大きい方が効率的になる。」

ラボグロウンダイヤモンドをオンライン掲載しているVDB(ヴァーチャル・ダイヤモンド・ブティック)の共同創設者兼CEOであるターニャ・ニスグレツキーは、小さなサイズのラボグロウンダイヤモンドの生産がもはや経済的でない理由の1つとして、(主な生産地である)中国の賃金上昇を挙げた。

「以前は(ラボグロウンダイヤモンド工場で)何百人もの人々が顕微鏡の前に座り、ピンセットを持って、(ラボグロウンダイヤモンド生産の準備工程として)プレートの上に0.5mmほどのシード(種結晶)を手で設置していました。それは正しい配置に非常に注意深く設置される必要があり、非常に手間のかかる方法です。当時中国の賃金は低く、それによってこのような作業が可能でした。しかし現在では賃金は上昇しており、もはや費用効率的ではなくなっています。」と彼女は言う。

MVIマーケティングのCEO、マーティ・ハーウィッツは「ラボグロウンダイヤモンドの0.01ctや0.02ctのメレサイズがすぐに戻ってくるとは思わない。」と言う。「0.10ct以下のダイヤモンドがファッションジュエリーのカテゴリーとして進化した理由は、アーガイル鉱山のおかげです。アーガイル鉱山は現在閉鎖されています。今、ラボグロウンダイヤモンドを扱う人々は『メレサイズのダイヤモンドでファッションジュエリーを作りたい』と言います。しかし、効率的に成長させることはできません。利益にならないのに、それを生産する理由がないのです。」

彼は、デザイナーとジュエリーメーカーは0.25ctやそれより大きなものをサイドストーンとして使い始める必要があると言う。なぜならそのサイズはカラーやグレードを揃え、スケーラブルなボリュームで効率的に成長させることが可能だからだ。小さいサイズの使用を避け、ジュエリーデザインのパラダイムを再定義させる必要があると彼は述べる。

識者が言及したその他ポイント

ラボグロウンダイヤモンドの価格が下落したという一般的な認識があるが、ニスグレツキーは、特定の大きく高品質のダイヤモンドの価格が上昇しており、業者がRapaportプライスを価格参照として使用し続けていることが混乱を引き起こしていると述べた。

「Rapaportプライスが上がると、生産者は価格を調整します。以前80%マイナスだったとしたら、今度は83%マイナスにするといった感じです。そのため人々は80%マイナスと83%マイナスが同じ価格であると気付きにくくなっています。」と彼女は言います。ラボグロウンダイヤモンドはRapaportプライスを基準にすべきではないと彼女は言う。「カラットあたりの価格に基づく必要があります。なぜなら、割引に基づいているのではなく、同一条件商品だからです。」

ハーウィッツは次のように付け加えた。「私の感覚では、主な生産者はRapaportプライスの使用をやめたいと思っています。そして最終的にはそうなると思います。」

ダイヤモンドトリートメント(色の改変処理)の特許満了は、高いカラーグレードのラボグロウンダイヤモンドの生産増加に繋がるだろう、とIGIのポラードは言う。

IGIは、ラボグロウンダイヤモンドのグレーディングレポートに、トリートメント(処理の有無)に関して記載していると彼は述べている。しかし、人々がトリートメントをどう受け止めているかは、使用される成長方法(CVDかHPHTか)によって異なる。

「天然宝石にとってははトリートメントは汚名となります。」と彼は言う。「HPHTは、まさに自然が行っていることの統合です。基本的には、自然が見せてくれたことを再現していると言うことです。」

「CVDはまったく異なるものです。 それは自然を再現するものではありません。それは、本質的にエネルギーを使用して、圧力を使用せずにダイヤモンドを結合させることによって、自然のやり方とは違う方法を見つけたと言うことです。HPHTは自然の成長を再現しているので、成長の後でそれをアニール(処理)する場合、それはトリートメントであるという議論があります。しかし、CVDの場合、トリートメントは自然とは違うもう1つの追加のステップにすぎません。」

ハーウィッツによると、MVIの市場調査では、トリートメントを説明された一部の消費者は「As-Grown(成長したままの – 処理していない)」ダイヤモンドを好むことがわかっている。

「その数は圧倒的ですか?」との質問には彼は「いいえ」と答えた。しかし彼は、トリートメントは生産者に一定のリスクをもたらすと述べた。「トリートメントする場合、ダイヤモンドを生産工場以外の別の施設に送る必要があります。生産者が自分の施設内にトリートメントの設備を持っていることはめったにありません。そしてそれは、管理と透明性に時間とリスクを追加することになります。」

中国は現在、世界のラボグロウンダイヤモンドの半分以上を生産しており、引き続きシェアの大部分を独占するだろうとポラードは予測している。「中国には限界がありません。1,000年の歴史に基づいて、彼らは引き続き業界を支配するでしょう。」

ポラードはまた、ダイヤモンド生産者はファンシーシェイプや新しいカスタムカットを行うようになるだろうと述べた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました