世界的なダイヤモンド業界のリサーチ、分析、コンサルティング企業であるエダン・ゴラン(Edahn Golan Diamond Research & Data Ltd.)は、6月27日に「ラボグロウンダイヤモンド、全ての恐れは実体化している – Lab Grown: All Fears Materialized」と題した業界分析を発表し、ラボグロウンダイヤモンド市場に関してのリサーチ結果と観点を説明している。
2018年、デビアスはラボグロウンダイヤモンドの価値を低下させ、市場を分割させることによってラボグロウンダイヤモンド市場を牽制することを主な目的として、独自のラボグロウンダイヤモンドジュエリーコレクションである”LIGHTBOX JEWELRY”を発表した。市場を分割して独占することは古くからの競合戦略だが、この場合それは同社の期待どおりにいかなかった。驚くべき点は、天然ダイヤモンド業界はその不安が実体化するのをただ見ていただけではなかったということだ。ラボグロウンダイヤモンド業界も同様だ。
天然ダイヤモンド業界:競争の損失の恐れ
以前、ダイヤモンド業界の人々はラボグロウンダイヤモンドを軽視し、また排除しようとした。またその価値を貶めるために「合成(Synthetic)」の用語を使用した。今でもこの用語を使用する人々も存在する。一方で一部の人々はその潜在的な脅威を認識し、消費者の心理的な天然ダイヤモンドの価値を積極的に守ろうと努めた。しかしその努力にも関わらず、成功は限定的なように見える。
今までに実体化した天然ダイヤモンド業界の懸念は以下の通り。
消費者の受け入れは増加している
当初、米国消費市場ではラボグロウンダイヤモンドは奇抜な新商品と見なされており、多くの場合「模造品」と考えられていた。しかしわずか5年間で、この一般的な認識は大きく変化している。
現在、多くの消費者の見解として見られるのは、ラボグロウンダイヤモンドは合理的な(天然ダイヤモンドの)代替手段であり、これは天然ダイヤモンド業界の恐れを完全に実体化したものだ。この考え方は、何年にもわたる拒否の後、最終的にラボグロウンダイヤモンドをラインナップに追加した大手の小売業者の数が増加していること、またラボグロウンダイヤモンドより倫理的であるという繰り返しの主張によって一般化されている。この倫理的だとの主張は、あらゆる業界の企業に対して(社会的)説明責任を要求し、環境に配慮する消費者の増加に共鳴している。
天然ダイヤモンドとの大きな価格差、デザインの趣向変化と相まって、コロナという大きな変化の舞台が訪れる。
多くの人がジュエリー以外にもお金を費やしたり、より大きなダイヤモンドを買うことにも目を向けたとき、ロックダウンにより大きな変化がもたらされた。ラボグロウンダイヤモンドは選択肢として受け入れられるようになったのだ。
やがて、自粛疲れとなった消費者は、特にイヤリング(ピアス)で、より大きなラボグロウンダイヤモンドを購入するようになる。天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの価格差をポケットに入れるのではなく、彼らは(天然ダイヤモンドと同じ予算で)より大きなダイヤモンドを購入することを選択した。それは大きな認識の変化であり、この傾向は間もなくブライダルなどの他のカテゴリーに拡大していった。
市場シェアの急速な増加
2016年から2018年にかけてのスタート時期の低迷の後、ラボグロウンダイヤモンドの市場シェアは絶えず成長してる。2020年には、米国の宝石専門店でのダイヤモンドの合計売上高の3%をラボグロウンダイヤモンドが占めた。2021年には5%に成長し、現在は7%を超えている。この傾向は少なくともしばらくは続くとされてる。
天然ダイヤモンド業界からの参入
デビアスがきっかけになったことで、また単に多くのマージンの為に、多くの大手ダイヤモンドメーカーがラボグロウンダイヤモンドの製造、研磨、購入を開始した。これはある意味で完全に理にかなっている。 (天然ダイヤモンドによって)確立されているダイヤモンドメーカーは誰よりも原石を購入して研磨する方法を熟知しており、既存のジュエリー小売業者は誰よりもジュエリーを販売する方法を熟知しているからだ。
結局のところ、既存のダイヤモンド企業がラボグロウンダイヤモンド分野に参入しなければ、他の(異業種)企業が参入するだけだ。そうだとしたら、既存ダイヤモンド企業はそのような優位性を確保できるのに、なぜこの新しいビジネスを異業種企業に任せるのだろうか?
標準化:政府などによる基準や規定の増加がラボグロウンダイヤモンドを標準化する
2018年7月に米国連邦取引委員会(FTC)は、ダイヤモンドの定義から「天然(Natural)」という文言を削除することを決定した。
これは、ラボグロウンダイヤモンドを合法化するための重要な公式のステップとなった。その他の公式の決定には、ラボグロウンダイヤモンドを説明するために使用できる用語、ラボグロウンダイヤモンドの個別の税関コードの作成などが含まれている。
政府だけでなく、他の様々な団体もラボグロウンダイヤモンドを際立たせるための措置を講じた。例えばGIAは、(天然ダイヤモンドと)同じ(グレード)用語を使用してラボグロウンダイヤモンドをグレーディングすることを決定したが、明確な別個のレポート形式を採用している。
これらのステップは多くの場合、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドをより明確に区別するために設定され、またラボグロウンダイヤモンドであるという注意を促すためでもある。
ジュエリー専門小売業者への浸透が広まる
先のパートで、小売業者による採用がラボグロウンダイヤモンドを一般化するのに役立ったことを指摘したが、これは逆のパターンでも機能することがある。小売業者は、消費者が求めるものを採用することが往々にしてあるからだ。
そして実際に、小売業者はその行動を取っている。テノリス(ゴランが共同設立した小売業界アナリスト企業)のデータによると、2020年1月に米国の独立宝石小売店の19%未満がラボグロウンダイヤモンドを販売していたが、現在では専門小売店の約半数がラボグロウンダイヤモンドのジュエリーを販売している。
この受け入れの急速な上昇は、機会損失への恐れが反映されている。多くの小売業者は、「合成」が受け入れられないハイジュエラーでさえ、この新製品から得られる収入の一部を享受したいと考えている。
ファッションから、ブライダルへの拡大
ブライダルはダイヤモンド業界で最も収益性の高い部分であるため、ラボグロウンダイヤモンドのブライダル分野への拡大は天然ダイヤモンド業界の最も深い恐怖となっている。長年にわたるダイヤモンド業界のマーケティング予算の大部分はブライダルに焦点を合わせてきていた。
「Diamond is Forever (ダイヤモンドは永遠の輝き)」キャンペーンは、究極の愛の象徴として主にブライダルに焦点を当てていた。実際、中国市場へのダイヤモンドジュエリーの最初の大きな推進力は、ダイヤモンドウェディングリングの需要を生み出すことであった。ブライダルは常にダイヤモンド産業を推進するエンジンの役割を担っている
もし米国の消費者がブライダル分野で天然ダイヤモンドを「放棄」した場合、米国のダイヤモンド業界は収益の約半分を占める主要なダイヤモンド購入層を失うことになる。
ラボグロウンダイヤモンド業界:価値の低下の恐れ
天然ダイヤモンド業界は天然ダイヤモンドの慣習や文化に関連した喪失を恐れているが、ラボグロウンダイヤモンド業界は、経済的な喪失を恐れている。
重要な点は、ラボグロウンダイヤモンドが技術主導型の製品であるということだ。これにより何年にもわたってラボグロウンダイヤモンドの生産コストは下がっており、生産効率が向上するにつれてさらに低下するだろう。
小売業者も卸売業者の利益が非常に大きいことに気づき、より低い価格を要求しはじめている。
技術の進歩と小売業者の値下げ要求という2つの圧力は、ラボグロウンダイヤモンドの経済、およびその未来を決定付ける最も影響力のあるものとなっている。
卸売価格の下落
ラボグロウンダイヤモンドの人気の高まりは、熱狂を生み出した。 生産者、加工業者、および卸売業者は(初期の)多くのマージンを求めて急いで参入した。しかし、しばらくすると市場は飽和し、供給は需要を上回り、卸売価格は必然的に下落しだした。
デビアスがLIGHTBOXによって革新的な価格構造を発表した2018年以来、内部取引価格は下落している。
2019年当時、業者が「84%バック」つまりラパポートプライスリストから84%の割引を提供していたとして、現在では95〜97%の割引が一般的になっている。
下落しているのは内部取引価格だけではない。テノリスによると小売業者の仕入コストも低下している。
小売価格の低下
小売業者は価格を引き下げており、卸売業者も引き下げを余儀なくされてる。 カラットあたりの平均小売価格の下落は、小売業者の仕入れコストの低下に繋がり、ラボグロウンダイヤモンドのパイプライン全体に影響している。
流通の中間に位置するプレイヤーは、この競争がますます激化するマーケットでビジネスを生み出すのが難しいと感じるかもしれない。多くの卸売業者はメモ(委託)で商品を供給しており、キャッシュフローが圧迫されている。
資金が限られている小規模なプレーヤーは、この状況が制御不能になる可能性がある。
利益の縮小
小売業者は彼らの総利益を厳しく確保するが、卸売業者は継続的な利益の縮小に苦しんでいる。
繰り返しになるが、宝飾品質のラボグロウンダイヤモンドは短い商業的歴史の中、過去5年間で大きな変化が起こってきた。当初、卸売のマージンは非常に大きいものだった。明言されていないがデビアスのLIGHTBOXの目的の一つは、既存の業者の卸売マージンを低下させることだった。
LIGHTBOXの低価格戦略はラボグロウンダイヤモンドの卸売マージンへの圧力を与えたが、実際のマージンを低下させたのは飽和した市場だった。上流と中流のプレーヤーが増え、商品が過剰供給になるにつれ、サプライヤーはコスト削減よりも早く価格の引き上げを余儀なくされた。
現在のマージンは2018年よりもかなり下がっており、マージンがしばらく縮小し続けるのではないかとの懸念が根強くある。
中流プレイヤー市場シェア競合
ラボグロウンダイヤモンドのパイプラインの中で最も厳しい分野は、競合の多い中流プレイヤーだ。分野での過密の兆候は値下げやマージンの低下にとどまらない。
過去、天然ダイヤモンド業界の中流プレイヤーの最大の課題の1つは、メモ(委託)で小売業者に供給される商品のレベルだった。銀行融資と市場シェアの獲得が、この供給の主要な推進力となっていた。市場シェアと収益重視の資金調達のコストにより、メモで供給される天然ダイヤモンドは少なくなり、最近では2桁台前半にまで縮小している。
ラボグロウンダイヤモンドのサプライヤーはメモを実施している。資金調達がまだ行われている場合、この唯一の理由は市場シェアのためだ。つまり、競合他社ではなく自社の商品が小売業者の在庫にあるためだ。
しかし、これは不健康な状況だ。たとえメモ商品が通常仕入れの商品よりも最終的に高い価格で販売できたとしても財政的負担は耐え難く、低コストにはほど遠い。メモの問題はキャッシュフローの影響の問題なのだ。
一部の企業はメモハウスになるビジネスモデルをとっている。しかし、それは特殊でありほとんどの企業は、これを可能な限り回避する必要がある。ラボグロウンダイヤモンドの中流プレイヤーはこの有害な商習慣から身を引く必要がある。
米国以外の消費市場が拡大していない
ラボグロウンダイヤモンドの発展は米国で見られる。ラボグロウンダイヤモンドは消費者市場で爆発的に拡大していると考えられているが、現時点ではそれは米国のことだ。
カナダやオーストラリアなど、他の英語圏の国々でも需要が見られるが、それは米国をはるかに超えるものではない。ラボグロウンダイヤモンドの市場規模は大きいが、それが現時点で限られた市場であることが懸念事項となっている。
他のほとんどの国では、ラボグロウンダイヤモンドは「本物ではない」と見なされている。限られた市場の外で拡大する場合、消費者の心理を変えるためにかなりの投資が必要になるだろう。とはいえそれは不可能ではない。
単にユニークであるという消費者の興味の消失
ラボグロウンダイヤモンドの多くは「(天然ではない)他のダイヤモンド」として販売されており、その多くの場合、(天然ダイヤモンドに対する)否定的な文脈を使用してる。他の製品の(事実かそうではないかに関係なく)欠点に基づくマーケティングプログラムは持続不可能だ。
成功するためには、ラボグロウンダイヤモンドの独自のストーリーを開発する必要がある。それは(天然ダイヤモンドと同じ)「永遠」や「自然」とは異なるものだ。そして正直なところ、「持続可能(サスティナブル)」とは、競合製品の否定ではなく、私たちの生活のあらゆる側面に関係することが求められている。
ラボグロウンダイヤモンドの物理的属性もまもなくストーリーではなくなる。ラボグロウンダイヤモンドがすべてDカラー、フローレスになると、唯一の差別化はブランドになるだろう。そしてブランドとはストーリーだ。
ラボグロウンダイヤモンドが天然との競合から離れるまで、金銭的および知覚的の両側面で価値が低下し続ける。
売上シェアは上昇しているが、まだ限定的(変化する可能性)
ダイヤモンド売上高におけるラボグロウンダイヤモンドのシェアは急速に上昇しており、2020年のわずか3%から現在では7%に上昇していると前述したが、これは天然ダイヤモンドとのシェアとの比較であり、ラボグロウンダイヤモンドのマーケットという観点からはそれほど多くない。
ラボグロウンダイヤモンドの支持者はビジネスのかなり大きなシェアを求めており、その多くの人は、天然ダイヤモンドからはるかに大きなシェアを取るだろうと予測していたが、少なくとも現時点ではまだそれは起こっていない。
結論
全体として、天然ダイヤモンド業界もラボグロウンダイヤモンド業界も多くの課題を持っている。どちらも解決すべき経済的問題があり、消費者の目から見た関連性を改善する必要があり、倫理的かつ持続的に行動していることを確認する必要がある。
どちらの側も自分が正しいと主張して、他の側を非難することはできない。
幸いなことに、両者の競争の激化により、彼らは価値を強化することを余儀なくされている。その点において、これは非常に歓迎すべき結果だろう。
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