デビアス、原石の公式価格を大幅引き下げ サイトホルダー削減後初の販売会

Close up of rough diamond sight parcels packed into a Sight case. De Beers Global Sightholder Sales, Gaborone, Botswana.

【スポンサー広告】

ほぼ全カテゴリーで価格を見直し

デビアスは2026年7月に実施したサイト(原石販売会)において、同社の公式販売価格を大幅に引き下げた。今回の価格改定は同社の歴史のなかでも特に大規模なものの一つであり、ほぼすべての原石カテゴリーが対象となった。

デビアスはこれまで、天然ダイヤモンド市場全体に与える影響を懸念し、公式価格の引き下げを極力避けてきた。しかし、公式販売価格が実際の市場価格を大きく上回る状態が長期化したことから、従来の価格維持方針を事実上修正した可能性がある。

今回のサイトは、同社が原石を直接購入できる契約顧客「サイトホルダー」の数を大幅に削減してから初めて実施されたものである。

二次市場との価格差を縮小

今回の改定によってデビアスの販売価格は、原石商や研磨業者などが相互に取引する二次市場の価格に近づいたと報道されている。これまでデビアスの公式価格は、原石のカテゴリーによって二次市場より5%から50%高い水準にあったとされる。今回の値下げにより、その価格差が大幅に縮小したとみられる。ただし、実際の値下げ幅は明らかになっていない。

デビアスは2026年から、原石の各ボックスについて個別価格を表示する従来方式を変更し、複数の商品をまとめた合計金額のみを請求書に記載する「ワンライン・インボイシング」を導入している。さらに、一部のボックスでは原石の構成内容も変更されている。このため、過去の販売会との単純な価格比較が難しく、カテゴリーごとの正確な値下げ率を算出することは困難でだという。

公式価格を維持しながら別ルートで値引き販売

デビアスは長年、世界最大級の天然ダイヤモンド供給企業として、市場価格の安定を重視してきた。同社が公式価格を引き下げれば、天然ダイヤモンド市場全体の価格心理を悪化させる可能性がある。そのため市場低迷が続くなかでも、サイトホルダー向けの公式価格を高い水準に維持してきた。

一方、デビアスは公式販売とは別の限定的な取引を通じて、値引きした原石を販売していた。つまり、公式価格を表面上維持しながら、一部の原石については実勢価格に近い条件で販売していたことになる。しかし、公式価格と二次市場価格の乖離が5%から最大50%に達する状況では、サイトホルダーがデビアスから原石を購入しても、その後の取引や研磨で利益を確保することが難しい。

今回の大幅な価格調整は、こうした価格体系を現実の市場水準に近づけ、買い手の採算性を改善するための措置とみられる。

サイトホルダーを約70社から45~50社へ削減

デビアスは2026年3月、サイトホルダーの数を従来の約70社から45~50社程度へ削減したと報じられた。削減前のサイトホルダーは69社であり、新たな契約対象は約45社になったとみられている。削減率は約3分の1に達し、1934年にサイト制度が始まって以来、割合としては2番目に大きな削減であるという。

従来のサイトホルダー契約は2026年6月30日に終了し、7月1日から新たな契約体制が開始された。今回の価格改定は、この新契約下で行われた最初のサイトとなる。デビアスは顧客数を減らすことで、財務基盤が強く、大量の原石を継続的に購入できる企業へ供給を集中させる方針とみられる。

市場環境が厳しい局面でも原石を引き取れる買い手との関係を強化し、販売の安定性を高めることが狙いと見られる。

「量より質」へ販売戦略を転換

サイトホルダーの削減と公式価格の引き下げは、それぞれ独立した措置ではなく、デビアスの販売戦略全体の再構築と捉える必要がある。従来のデビアスは、広範なサイトホルダーネットワークを通じて大量の原石を市場へ供給し、価格と流通を管理してきた。

しかし現在は、買い手の数を絞り込み、取引規模や財務力の大きい企業に原石を集中させる方向へ転換している。価格についても、市場実勢から乖離した公式価格を維持するより、買い手が実際に利益を確保できる水準まで調整する必要性が高まっていた。

サイトホルダー削減に関する業界報道では、今回の再編は「量より質」を重視し、少数の有力顧客とより深い関係を築く戦略の一環と指摘されている。

中国市場の低迷とラボグロウンの普及

天然ダイヤモンド市場では、中国のラグジュアリー消費の減速に加え、ラボグロウンダイヤモンドの普及が天然ダイヤモンド需要を圧迫している。特に小粒から中価格帯の天然ダイヤモンドは、価格が大幅に低下したラボグロウンダイヤモンドとの競争を受けやすい。

研磨業者や原石商は、天然ダイヤモンドの研磨後の販売価格が下落する一方で、原石価格が十分に調整されなければ利益を確保できない。こうした状況が長期化し、デビアスの販売価格と二次市場価格の乖離が拡大していた。さらに、米国の関税政策や中東地域の紛争も、ダイヤモンドの流通と消費に不透明感をもたらしている。

アンゴラ産原石の供給拡大も価格維持を困難に

デビアスの価格維持策を難しくした要因の一つが、他の産出国による供給だ。

アンゴラなどの生産者が市場価格に沿った条件で原石を大量に販売したことにより、デビアスが高い公式価格を維持することが困難になったとの指摘もある。アンゴラは記録的な量の原石を市場へ供給しており、買い手はデビアス以外から、より市場実勢に近い価格で原石を調達できるようになった。

かつて圧倒的な市場支配力を持っていたデビアスであっても、他の生産者が市場価格で供給を増やすなかで、単独で価格を維持することは難しくなっている。

値下げは市場正常化か、さらなる価格下落の始まりか

今回の価格改定は、研磨業者や原石商にとって、仕入れ価格と研磨済みダイヤモンドの販売価格とのバランスを改善する可能性がある。公式価格が二次市場に近づけば、サイトホルダーがデビアスから原石を購入する経済的合理性も回復する。その意味では、今回の値下げは歪んでいた原石価格を正常化する動きと評価できる。

一方で、世界最大級の供給企業であるデビアスが公式価格を大幅に引き下げた事実は、天然ダイヤモンド市場全体の価格指標にも影響を及ぼす。他の鉱山会社や原石販売者が価格を追随すれば、原石相場がさらに下落する可能性もある。また、原石価格の下落が研磨済みダイヤモンドの卸売価格や小売価格へ波及すれば、既存在庫を抱える企業には評価損のリスクが生じる。

デビアス売却を前に収益性改善を急ぐ

デビアスの親会社であるアングロ・アメリカンは、同社の売却を進めている。現時点では売却手続きが進行中であり、長期間にわたる業績低迷によって、デビアスの収益力と事業価値が厳しく評価されていた。公式価格を市場実勢へ近づけ、顧客を少数の有力企業へ集約することは、短期的な販売量の確保とキャッシュフローの改善につながる可能性がある。

一方で、今回の措置は、デビアスが市場価格を主導する立場から、市場価格に合わせざるを得ない立場へ変化していることも示している。今回の大幅値下げは販売価格の調整を超えて、天然ダイヤモンド市場の価格形成、サイトホルダー制度、そして長年デビアスが維持してきた市場支配力が大きな転換点を迎えていることを象徴しているのかもしれない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました