CIBJO、LGDの「laboratory-grown」呼称見直しへ 「synthetic」への一本化案、9月総会で審議

Screenshot
Screenshot

【スポンサー広告】

「laboratory-grown」を認めた15年間の方針を転換へ

ラボグロウンダイヤモンド(LGD)の呼称を巡る国際的な議論が、いま新たな局面を迎えている。

世界ジュエリー連盟(CIBJO)のDiamond Commission Steering Committee(DCSC)は、Diamond Blue Bookにおける人工的に製造されたダイヤモンドの呼称について、「laboratory-grown diamond」と「laboratory-created diamond」を削除し、「synthetic diamond」を基本とする改訂案を全会一致で承認した。

改訂案は2026年9月4日から7日までイタリア・ヴィチェンツァで開催されるCIBJO Centenary Congressに提出され、Diamond CommissionおよびCIBJO Board of Directorsによる正式な承認を求める予定だ。

今回の動きが注目される理由は、CIBJOが2010年以降認めてきた「laboratory-grown」「laboratory-created」という呼称を再び取り下げようとしていることにある。15年以上にわたって市場で使用されてきた名称を国際的な業界標準から削除するという方針転換であり、LGDの存在感が拡大した現在だからこそ起きた議論といえる。

CIBJO内部でも意見は一致していない

今回の改訂案については、CIBJO内部も完全に一枚岩ではない。CIBJOにはDiamond Commissionとは別に、LGDに関する問題を専門的に扱うLaboratory Grown Diamond Committee(LGDC)が設置されている。

Diamond Commission Steering Committeeは今回の検討に際し、LGDCの代表者も会議に招いて議論を行った。LGDC側は、現在認められている「laboratory-grown」と「synthetic」の併用を維持するよう求めた。その理由の一つが、すでに「laboratory-grown」という名称が世界の市場で広く使用されているという現実だ。

米国をはじめ多くの市場では、小売店、ブランド、鑑定・グレーディング機関、ECサイトなどが「lab-grown diamond」または「laboratory-grown diamond」を一般的な商品名称として使用している。15年以上かけて市場に浸透した名称を再び変更することが、消費者にとって本当に分かりやすいのか。今回の議論では、まさにこの点についてCIBJO内部でも異なる考え方が示された。

「laboratory」は現在の生産実態を表しているのか

一方、Diamond Commission側が問題視しているのが「laboratory」という言葉だ。現在のLGDは、その多くが小規模な研究室で実験的に作られているものではない。HPHT法やCVD法によるダイヤモンド製造は産業化され、中国やインドをはじめ世界各地に大規模な生産設備が存在する。

Diamond Commission側は、こうした現在の製造実態を考えれば、「laboratory-grown」という言葉が商品の起源を適切に表現しているのかという疑問を提示している。

さらにCIBJOのDiamond Commission Special Reportでは、「laboratory-grown」という表現が科学や研究施設を想起させることで、商品に特定のイメージを与えている可能性についても問題提起している。

これは今回の呼称問題の中でも比較的本質的な論点だ。「synthetic」という言葉が適切かどうかとは別に、すでに大規模な工業生産品となったLGDを「laboratory-grown」と呼び続けることが、製造実態を最も正確に表現しているのかという議論には一定の合理性があるとも考えられる。

「synthetic」は本当に最も分かりやすいのか

しかし、「laboratory」という言葉に問題があることと、「synthetic」が最も適切な名称であることは同義ではない。ここに今回の議論の難しさがあるだろう。

宝石学の世界では「synthetic」は明確な意味を持つ専門用語だ。天然石と基本的に同じ化学組成や結晶構造を持ちながら、人為的に製造されたものを示す用語として長年使用されてきた。その意味ではLGDを「synthetic diamond」と呼ぶことに科学的な矛盾はない。

一方、一般消費者が「synthetic(合成)」という単語を宝石学者と同じ意味で理解しているとは限らない。「synthetic leather(合成皮革)」「synthetic fiber(合成繊維)」など、一般社会では「synthetic」が天然素材とは異なる人工素材を意味するケースも多い。

ダイヤモンドの場合にはさらに、キュービックジルコニアやモアサナイトなどのダイヤモンド類似石が存在する。そのため、一般消費者が「synthetic diamond」という言葉から「人工的に製造されたダイヤモンド」を理解するのか、それとも「ダイヤモンドに似せた人工物」を想像するのかは、宝石学上の定義だけでは判断できない。

国際的な呼称を決めるのであれば、科学的な正確性と同時に、消費者がその言葉をどのように理解するかという検証も必要になる。

業界標準と市場の言葉に生じた「ずれ」

今回のCIBJOの動きでもう一つ注目すべきなのは、国際的な業界標準と実際の市場で使われる言葉との関係だ。

かつて宝石の名称は、宝石学研究機関、鑑別機関、業界団体などが定義し、その用語が川下へ広がっていく構造が一般的だった。

しかし、現在は状況が異なる。

EC、SNS、検索エンジン、ブランドマーケティングなどを通じて、消費者自身が日常的に使用する名称が形成されるようになった。「lab-grown diamond」はその典型例だと言える。

すでに世界中の消費者が検索し、企業が広告に使用し、小売店の商品カテゴリーとして定着している名称を、業界団体の規格変更だけで別の名称へ移行できるのかは未知数だろう。

CIBJO Blue Bookは世界のジュエリー業界において重要な参照基準ではあるが、各国の法律そのものではない。今回の改訂案が承認されたとしても、それによって世界の市場から「lab-grown diamond」という言葉が直ちに消えるわけではない。

むしろ今後は、「業界標準としての名称」と「市場で一般的に使用される名称」が異なる状態が生まれる可能性もある。

呼称問題の背景にある天然ダイヤモンド業界の危機感

天然ダイヤモンド業界では現在、LGDとの差別化を強化する動きが進んでいる。天然とLGDが異なる商品であることをより明確にし、天然ダイヤモンドが持つ自然由来の希少性を際立たせたいという考えは、現在の天然ダイヤモンド業界にとって合理的な自己防衛でもある。

その意味では、今回の改訂案をLGDに対する一種の牽制と捉えることもできる。しかし、ここで注目すべきなのは「天然対LGD」の勝敗ではない。今回の出来事は、LGDが無視できない規模の商品カテゴリーになったことによって、既存のジュエリー業界が従来の定義やルールそのものを再検討し始めたことを示している。

市場にほとんど存在しない商品であれば、その名称を巡ってこれほど大きな議論が起こることもない。呼称論争の激化そのものが、ダイヤモンド市場の構造変化を象徴しているともいえる。

LGD業界にも突き付けられた一つの問い

一方、「天然ダイヤモンドとの比較なしに、LGDは自らの商品価値を説明できるのか」という問いが存在する。

これまでLGD市場では「天然ダイヤモンドと同じ物理的・化学的性質」「天然より大幅に安い」「同じ予算でより大きな石を購入できる」といった訴求が市場拡大を支えてきた。

しかし、この説明には天然ダイヤモンドという比較対象が常に必要になる。

LGD市場が独立したジュエリーカテゴリーとして成熟するのであれば、いずれ天然との価格比較から離れなければならない。

例えば、従来の天然ダイヤモンドではコスト面から難しかった大胆なデザイン、大粒石を日常的に楽しむジュエリー、新しいファッションカテゴリー、あるいはダイヤモンドをより身近な素材として扱う文化など、LGDだからこそ成立する市場を作れるかどうかである。

これは「laboratory-grown」と呼ぶのか「synthetic」と呼ぶのかより、はるかに重要な課題になる。

「誰が名前を決めるのか」という問題

今回のCIBJOの議論は、最終的にはもう一つの問いにつながる。商品カテゴリーの名前は誰が決めるべきなのか、という問題だ。科学者なのか、国際的な業界団体なのか、製造企業なのか、小売企業なのか、政府なのか。それとも実際に商品を購入する消費者なのか。

当然、業界には科学的に正確な定義を作り、誤認を防ぐ責任がある。

しかし名称は同時に、消費者が商品を理解するためのコミュニケーション手段でもある。

もし国際的な呼称変更を「消費者保護」を理由として行うのであれば、「synthetic」「laboratory-grown」「laboratory-created」といった名称について、一般消費者がそれぞれどのように理解するのかを調査し、その結果を判断材料にすることも必要だろう。

業界関係者にとって科学的に正しい名称と、一般消費者にとって最も誤解の少ない名称が必ず一致するとは限らない。

9月のCIBJO Congress、その先に注目

今回の改訂案がCIBJO Congressで承認されれば、Diamond Blue BookにおけるLGDの呼称は大きく転換することになる。しかし、本当に注目すべきなのはその後だ。

ISOをはじめとする国際規格、各国の業界団体、鑑別・グレーディング機関、ジュエリーブランド、小売企業がCIBJOの方針に追随するのか。それとも「lab-grown diamond」という市場ですでに定着した名称が引き続き使用されるのか。さらに、各国の法制度がどのように対応するのかも重要になる。

LGDという新しい商品カテゴリーの急速な成長によって、長年ダイヤモンド業界が使用してきた分類、名称、国際標準、そしてその決定プロセスそのものが問われ始めている。

天然ダイヤモンド業界が自らの商品カテゴリーを守ろうとすることは自然な行動であり、LGD業界が現在の名称を維持しようとすることも同様だ。

だからこそ、そのどちらかの商業的利益だけで国際的な名称を決めるべきではない。

最終的な基準となるべきなのは、その名称によって消費者が商品の実態を正しく理解し、自らにとって最適な選択ができるかどうかだろう。

CIBJOが100周年という節目で行おうとしている今回の改訂は、「syntheticかlaboratory-grownか」という言葉の問題以上に、変化するジュエリー市場において、誰がルールを作り、誰の利益を基準としてそのルールを決めるのかを問いかけている。

コメント

タイトルとURLをコピーしました