ロシアダイヤモンド制裁に対する米国の4つの疑問

米国によるロシア産ダイヤモンドに対する広範な禁止措置が3月1日に発効しているが、その詳細については依然として不透明な状況が続いている。

ロシア原産のダイヤモンドとダイヤモンドジュエリーに対する新たな制裁は2024年3月1日にG7の全域で発効され、その禁止対象はロシア産のダイヤモンド原石を第三国で加工した1ct以上のポリッシュダイヤモンドにまで拡大された。それ以前は、インドなど第三国で加工(カット、研磨された)ダイヤモンドは厳密には米国に輸入することができた。米国および他のG7加盟国は、この制裁がどう機能するかについての情報を発表したが、依然多くの疑問が残っている。

米国の税関国境警備局はダイヤモンド輸入業者に対し、ダイヤモンドがロシア産ではないことを宣言する自己申告書を提出するように命じたが。しかしこれは、米国当局が規則を施行する方法を考案するまでの一時的な措置であると考えられる。

この禁止措置が短期的また長期的にどのように機能するかまだ不明だ。ディーラーは要求された自己申告書を添付して米国に商品を送り始めているが、税関当局が特定の商品に関する追加の証拠をディーラーに求めた場合にはどうなるのか、また米国が今後さらに複雑な要件を追加するかどうかについては不確実性がある。

あるダイヤモンド製造企業の幹部は匿名で「(これは)業界にとって少々混乱を与える。」と語った。「ロシア産のダイヤモンドが米国に流入しないようにするにはどうしたらよいか誰もが少し懐疑的だ。しかし人々は今、この問題が現実にあるという事実に気づいた。」と彼は述べる。

税関国境警備局は、電子申請システム(ACE)に必要な機能強化の準備が整い次第、「追加の申告要件」を発行すると述べている。

このような状況の中、業界は以下の4つの点について未だ答えの出ていない疑問を抱いている。

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米国の税関当局はどのような証拠を要求するか?

責任あるジュエリー協議会(RJC)は会員に対し、「申告書を発行する前に書類化した証拠を保管する」よう勧告している。ジュエラーズ警戒委員会(JVC)もよくある質問(FAQ)を発行し、輸入業者は入手可能な証拠を用意する必要があると述べている。しかし現時点では、米国は自己申告以外に非ロシア産である証拠の提出は義務付けていない。

しかしこれは今後変わる可能性がある。12月6日のG7首脳声明では、「ダイヤモンド原石の主要輸入国」である加盟国は「2024年9月1日までにG7内でダイヤモンド原石に関する堅牢なトレーサビリティに基づく検証・認証メカニズムを確立する。」と述べた。論理的に考えれば、これは最大のダイヤモンド小売市場である米国に入るポリッシュダイヤモンドが何らかのトレーサビリティを備えている場合にのみ有用だ。

しかし、これについては何も確認されていない。次の規制のステップに関して米国の制裁執行機関である外国資産管理局(OFAC)は、9月1日から対象範囲を0.50ct以上に拡大すると発表した。

米国はEUが計画しているG7認証制度を採用するか?

2022年2月にロシアウクライナ戦争が開始した直後、米国はロシア産ダイヤモンドに制裁を課した。当時EUはそれに追随しなかった。それは、その禁止が実行されてもロシア産ダイヤモンドが(EU以外の)他の取引所に移るだけだというアントワープの懸念によるものだと言われている。結果的にEUが2023年12月に制裁を発表したが、それは最終的には米国を含む他のG7加盟国よりも計画についての透明性を高めることになった。

2024年3月1日、EUはFAQでこの計画について詳細な説明を追加した。ダイヤモンド原石を特定する情報は、生産国のトレーサビリティ・プラットフォームに登録される。ダイヤモンド原石が「G7輸入ノード」(ダイヤモンドオフィスとして知られるアントワープの税関を指している)に到着すると、当局はダイヤモンドの物理的な検査を実施する。ブロックチェーンベースの台帳は「検証済みのトレーサビリティシステムにクエリを実行し、G7管轄区域に輸入されるダイヤモンドに関する既存の情報を取得する。」その後、G7証明書が発行され、検証が成功した後にG7台帳に追加される。」

EUによると、このシステムは試験運用として3月1日時点で導入されており、9月1日から本格的に運用される予定だという。この期間中、EUにダイヤモンドを輸入する企業は「トレーサビリティに基づく認証かその他の証拠による認証のどちらを使用するか」を選択できる。9月1日からは0.50ct以上のダイヤモンド原石の輸入にはこの認証が義務付けられる。また、この(0.50ct以上の)重量基準はEUへの輸入時にダイヤモンド原石と研磨済みダイヤモンドの両方に適用されるが、研磨済みダイヤモンドがアントワープを経由しなければならないとは規定していない。

この認証スキームは「既存のトレース技術と管理を使用および拡張することで機能する。」とFAQでは述べられている。

しかし一方で、米国は自国の輸入品についてそのような規制を設けていない。しかし、EUは米国の担当機関がそれを模倣することを望んでいる。

EUは12月、「(ロシア産ダイヤモンドの)禁止は、世界のダイヤモンド小売市場の大部分がそれを実施する場合にのみ有効である。」と述べた。「この目的のために、欧州委員会はトレース技術などを通じた協調的な制限措置を設計し効果的に実施することを目的として、G7諸国や業界を含む他の主要パートナーと連携してきた。」と述べた。

米国市場向けのすべてのダイヤモンドは、原石の認証のためにアントワープを通過する必要があるか?

現在、EU市場に入るダイヤモンドは「全て」ベルギー・アントワープのダイヤモンドオフィスによる認証を義務付けられることが計画されている。しかしこれは、ベルギーが自国のダイヤモンド産業に利益をもたらすためにこの制裁を利用しているのではないかという疑惑を招いており、この制裁計画の中で最も物議を醸している側面の1つでもある。現時点では、アントワープを単一のエントリーポイントとする制度を確認する書面による声明はEUからしか出ていない。

3月1日から8月31日までにダイヤモンドをEUに輸入する場合、アントワープのダイヤモンドオフィスを通じて「G7証明書を発行する」か、ダイヤモンドとその産地に関する詳細情報を記載した証拠書類を提供するかを選択できる。EUの12番目のFAQによれば、単一原産地のキンバリープロセス(KP)証明書、またはデビアスの混合原産地証明が認可される原産地証明とされている。

ただし重要な注意点として、これらの証拠書類は「重量が1ct以上のCNコード”7102 31 00″および”7102 10 00″の商品が遅滞なくアントワープ・ダイヤモンドオフィスに提出された場合に限り」受け入れられる。これらのコードはダイヤモンド原石用だ。言い換えれば、EUに入る1ct以上のダイヤモンド原石はすべて、アントワープのシングルエントリーポイントに運ばれる必要がある。
(CNコード – 貨物を輸出入する際に用いる品目分類番号で、世界共通で用いられるHSコード(6桁)にEU独自の下位分類を加えた8桁の番号)

世界ダイヤモンド取引所連盟(WFDB)は、G7がこのダイヤモンド原石の輸入に関するEUの管理を研磨済みダイヤモンドにも拡大する可能性があることを懸念している。同団体は2月28日、G7各国政府に宛てた書簡の中で「私たちは、G7市場で研磨済みダイヤモンドの販売を希望するすべての参加者に対し、まずその原石をベルギーに送るよう強制することに団結して反対する。」と述べた。WFDBは、各国政府が自国でダイヤモンドを認証できるよう、EUが使用しているトレース技術を世界中で利用できるようにするよう求めている。

既存在庫の取り扱いはどうなるのか?

米国の税関は、ダイヤモンドの原産地がロシアではないことの証明を要求しているが、期間については指定されていない。そのため、この規制にはロシアウクライナ戦争開始前のロシア産ダイヤモンドにも適用されるのかについての疑問がある。

また、ロシア産ダイヤモンドがすでに米国内にある場合、それらを輸出および逆輸入することはできまるだろうか。これは、展示会に参加した後に商品を米国に返送する必要があるディーラーや、またダイヤモンドを国際的に取引するその他すべてのディーラーにとっては関心の高い疑問だ。

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