米国関税がもたらす研磨ダイヤ価格の急変動、三度目のスパイクを記録

米国の関税政策が、研磨済みダイヤモンドの国際価格を繰り返し乱高下させている。直近では9月上旬に価格が急騰し、これは今年に入り3度目の関税を起因とする価格スパイクとなった。地政学的な緊張を背景とした米国の通商政策が、ダイヤモンド市場に直接的な影響を及ぼし、サプライチェーンに歪みを生じさせている実態が浮き彫りとなった。

■地政学リスクが波及、9月に3度目の価格急騰

ダイヤモンドのリアルタイム価格を追跡するIDEXオンライン・ダイヤモンド指数によると、価格は9月8日から10日にかけて約3.8%急騰。しかし、その直後の2日間で4.2%急落し、市場はジェットコースターのような値動きを見せた。

この変動は、米国が8月27日に発動した追加関税への遅延反応である。米国は、インドがロシア産原油の購入を続けていることへの制裁措置として、インド製品に対し25%の追加関税を課した。これを受け、インドの輸出業者は関税発動前に出荷を急いだため、一時的な市場の歪みと在庫の偏りが生じた。その後、9月10日頃にかけて、取引業者が新たな関税を価格に反映させ始め、在庫の再調整が進むにつれて、市場心理が変化し価格急騰につながったと分析される。

■繰り返される「駆け込み出荷」と「価格調整」

同様の価格スパイクは、過去に2度観測されている。

1度目は6月25日から27日で、価格は6.9%上昇した。これは、トランプ前大統領が報復関税の導入を示唆したことを受け、バイヤーが関税発動を回避しようと米国への注文と出荷を急いだために発生した。

2度目は7月30日から8月7日にかけてで、6.7%上昇した。この日は報復関税が世界的に発効したタイミングと重なる。特にインドの製造業者が関税適用を避けるために土壇場で緊急出荷を行ったことが、短期的かつ急激な価格上昇を引き起こした。

注目すべきは、これら3度の急騰がいずれも長続きせず、数日後には市場の自己修正機能が働き、価格が急落している点である。これは、実需に基づかない人為的な要因がいかに市場を不安定にさせているかを物語っている。

■日本市場への影響と今後の展望

一連の価格変動は、単なる短期的な乱高下とは言えない。2021年後半から2022年初頭にかけて見られたコロナ禍からの回復局面での価格上昇は、力強い需要に支えられた上昇トレンドの一部であった。しかし、現在の価格スパイクは、米国の通商政策という外部要因に振り回される投機的な動きであり、市場の健全性を損なうものだ。

関税前の駆け込み出荷は、サプライチェーンに混乱をもたらし、在庫の偏りを生む。これは結果的に需給バランスをさらに不安定にし、価格の予測を困難にしている。

この影響は、日本市場にとっても決して他人事ではない。ドル建てで取引されるダイヤモンドの仕入れ価格は、こうした国際相場の乱高下に加え、昨今の円安が追い打ちをかける。コスト上昇は避けられず、国内の卸売業者や小売業者は、価格戦略や在庫管理の見直しという難しい舵取りを迫られることになるだろう。

今後も米国の通商政策や、それに絡む地政学的リスクは、ダイヤモンド価格の主要な変動要因であり続けるとみられる。業界関係者は、IDEXのような客観的な価格指標を注視し、不確実性の高い市場環境に対応するための、より一層機敏な情報収集とリスク管理体制の構築が求められる。

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